退職する1ヶ月前に有給を消化し、そのまま辞める際の流れと注意点について解説します。
退職する1ヶ月前に有給を取得しても問題は無い
退職の際に有給消化をするなら何日前が適切なタイミング?
有給の取得タイミングは原則として労働側が希望した時が起点となります。その為、退職の1ヶ月前に有給取得を申請することに法的な問題はありません。
退職者には時季変更権は無効
労働者の有給取得に対して会社側にも「時季変更権(会社が労働者の有給取得日の時期をずらせる権利)」がありますが、有給消化と同時に退職予定の労働者に対しては時季変更権は認められていません。
時季変更権は退職予定日を超えた行使はできないため、有給消化後に退職してしまうということは他の時季に有給休暇を振り分けることができないということになり、時季変更権を行使することができなくなります。そのため、退職を前提とした際の有給申請に対しては有給申請者の請求が通ることになります。
【補足】時季変更権を成立させること自体が簡単ではない
仮に会社側が強引にでも時季変更権を主張してきたとしても、そもそも時季変更権を成立させること自体が用意ではありません。
むしろ、労働者に納得してもらえるだけの明確な理由が無ければ逆に労働者側からの訴訟リスクが発生し、会社側に罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が課せられる可能性があります。
第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
労働基準法 | e-Gov法令検索
リスクがある以上は会社側も時季変更権を乱発することが出来ず、余程のことが無い限りは時季変更権を発令することはありません。
有給は労働者の権利
第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
労働基準法第三十九条|e-Gov法令検索
そもそも論として有給は労働者の権利としてして認められており会社はその権利を拒否することはできません。
- 入社から6ヶ月間継続して働いている
- 労働日のうち8割以上出勤している
以上の2点を満たしていれば、まずは最低限の権利である10日間の有給休暇が支給されます。
また、有給取得のタイミングは原則労働者側の裁量に委ねられていることから、退職前のどのタイミングで有給を利用しても問題はありません。
有給と退職処理について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
【補足】退職前の有給消化は最大で40日利用できる
勤続年数に応じて有給の日数は変化しますが、最低でも10日、最高でも40日となります。
勤務期間 | 取得可能日数 |
半年 | 10日 |
2年半 | 11日 |
3年半 | 12日 |
4年半 | 16日 |
5年半 | 18日 |
6年半 | 20日 |
それ以上 | 勤務期間が6年半以上は1年ごとに20日支給されます。 |
勤続年数に応じて有給の日数は変化しますが、最低でも10日、最高でも40日となります。
そのため、どれだけ長く勤務していても、有給休暇を一度も取得したことがなかった人でも、最大で保有できる有給の日数は40日間までとなります。
有給を申請する前に知っておくべきこと
1.退職後には有給の権利は消滅する
有給の権利が残っていたまま辞めると権利は消滅します。
そのため、辞める前に有給消化を済まさないことには労働者側からすると「せっかくの権利なのにもったいない」となります。退職前に有給の日数が残っている場合は必ず退職前に有給を消化してしまいましょう。
辞める前に有給が残ることに対する悩みについて詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
2.退職の際に有給消化できないと言われた場合
「有給は労働者の権利」でもお伝えしたように有給は労働者の権利であり、会社側に拒否する権限はありません。その為、仮に有給の利用が出来ないと言われても会社側の要請に従う必要はありません。
当然の権利ですので会社側の主張は拒否しましょう。
なお、有給は正社員だけの権利ではなく正社員、派遣、パート問わず条件を満たせば有給という権利が皆一様に発生しますので雇用契約内容に関わらず有給の条件を満たしていれば誰でも有給を申請・消化することが可能です。
パートでも有給の権利があると主張したい時は以下の記事もご参考になさってください。
3.引き継ぎに義務は無い
退職時に有給を申請した際、「引き継ぎが出来ていないから有給は認められない」と言われる職場も少なくありませんが、こうした会社側の申し出には従う必要はありません。
引き継ぎは法律で定められた規則や義務ではなく、お世話になった会社に対する気持ちとして行う業務です。つまり、引き継ぎを拒否することもできますし引き継ぎをしないことで罰則が発生することもありません。
一方、有給は労働者の権利として法で定められています。
つまり、「有給の行使」と「引き継ぎ」では有給の行使の方が強制力があるので仮に引き継ぎが出来ていない場合であっても有給を消化させることが優先されます。
もちろん円満退社や一般的なマナーとしては引き継ぎは行った方が良いですが、事情があってどうしても対応が難しい時は引き継ぎ未対応で退職前に有給を行使をしても問題はありません。
4.損害賠償請求は原則として気にする必要は無い
「退職時に有給を使うなら賠償請求する」などと仮に脅されたとしても従う必要はありません。
(賠償予定の禁止)
労働基準法第16条
第十六条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
原則として損害賠償ありきの労働契約を結ぶことは法律で禁止されています。そのため、有給を認めてくれない会社で強引に有給の権利を行使して退職したとしても損害賠償を義務付けることは出来ません。
損害賠償は第三者が見ても辞めることで会社に多大な悪影響を残したときに検討されます。例えば退職時に多くの同僚を一緒に引き抜いて辞めた、退職時に会社のインサイダー情報を公開した、などが該当します。
そのため、ただ法に則って有給の権利を行使して退職するだけの労働者に対しては会社に多大な悪影響を残したとは認められにくいので原則として退職時の損害賠償は気にする必要はありません。
【補足】退職時の有給休暇の拒否はパワハラに該当することもある
退職に合わせて有給休暇を申請したにも拘わらず強引にでも有給の権利を潰そうとする場合、ケースによってはパワハラとなる可能性もあります。
現代社会においてハラスメント行為は「パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)」という名の明確な違法行為となりますので従う必要はありません。
むしろパワハラが成立した場合、会社は当該従業員に対して慰謝料を支払わなければならない可能性があります。そのため、会社側も無理な対応は控えてくるでしょう。
5.有給消化中におけるボーナスの扱い
有給消化中期間であったとしても退職日までは在職扱いとなります。
その為、ボーナス支給期間と有給消化期間が重なっている場合は在職していることになるのでボーナスを支給される権利があると考えられます。
ただし、ボーナス(賞与)の支払い規定に関しては法的な定めが無いことから各社の就業規則に準じることになります。満額もらえることも有れば「有給期間中の場合は至急なし」「有給休暇中のため減額」などの可能性もあります。
その為、ボーナスと有給の兼ね合いに関しては事前に就業規則を確認し、万が一の漏れないようにしておきましょう。
万が一にも会社からボーナスの支給忘れないようご注意ください。
6.退職届の記載に注意
有給消化中は在籍扱いとなるのでその会社に勤務していることになります。よって辞めてはいません。
以上のことから退職届を提出する際の退職日の扱いですが、有給消化が終わった後の日付にしましょう。
7.有給の買取は原則として認められていない
有給の日数が余った際に会社に買い取ってもらうケースも有りますが、原則としては有給休暇の買取りは労働基準法では禁止されている行為となります。そのため、絶対に買い取ってもらえる保障があるわけではありません。
そのため、基本的には「有給は消化するもの」として理解しておきましょう。
急な退職で残った有給休暇がある場合
ただし、有給の買取はあくまで会社と労働者間の協議によって成立する面があるため、急遽の退職などどうしようもない事情がある際はまずは会社側と相談してみてください。会社側と合意に達した場合は買取は成立します。
なお、「労働基準法を上回る日数の有給休暇が付与されており、退職時に使い切れていない」という特殊な事情がある場合に限り残った休暇を会社が買い上げることは認められています。
8.給付金の申請をしておく
退職後すぐに転職では無い方の場合のみのお話となります。
退職後は失業保険を申請するのとは別に「給付金」の申請もしておきましょう。
失業手当は通常3ヶ月しか受け取ることが出来ませんが、給付金は最大28ヶ月に渡って給付金を受け取ることができる可能性があります。
以下の条件に該当する方は給付金対象となるので、退職を検討する際は必ず申請しておきましょう。
【条件】
- 社会保険に1年以上加入している
- 退職日まで2週間以上ある
- 次の転職先が決まっていない
- 20歳以上
退職後の給付金は自分で申請しなければ受け取ることが出来ない制度です。
退職後の当面のお金(生活費)に対して心配な方はぜひ申請して受け取ってください。
退職時に有給消化できないと言われた時の対策
A.人事部・法務部に相談する
あなたが相談した上司が法務に精通していない場合、有給の法的な権利を理解していないために理不尽な判断をする可能性もあります。
法務部や人事部など人事/労務の専門部署に相談することで正当性を認めさせることもできますので、速やかに相談してください。
B.労働基準監督署に相談する
- 人事部・法務部に相談できない
- そもそも人事部・法務部が存在しない
などの状況であれば労働基準監督署に相談という手段もあります。
参考:労働条件相談ほっとライン
ただし労働基準監督署は直接的に個々人の問題を解決してくれるわけではなく、あくまで相談内容を元に会社に指導をするだけの立場です。
絶対にご自身の問題が解決できるとは言えない、という点は注意してください。
C.労働組合が運営する退職代行へ相談する
どうしても難しい状況であれば労働組合が運営する退職代行サービスを利用して辞めてしまいましょう。
なぜなら、依頼主に代わって有給消化の申請を会社に伝え、且つ退職も確実に成立するからです。
お手持ちのスマホから電話やLINE(メールでも可)で申込み相談が可能。また、希望すれば即日から代行業者が動き出してくれます。
代行業者が動き出した瞬間からあなたは職場に行くことも連絡する必要も無くなるので、早ければ相談した即日から会社に行かなくても良い状態にもなれます。
退職代行の具体的なメリットとしては、
- 確実に退職が成立する
- 法律に則って対応するのでトラブルがない
- 自分で対応する必要が無いので退職にまつわるストレスが無い
などがあり、退職代行費を支払う以上の利用メリットがあります。
そのため、もしあなたが
- 退職前の有給を認めてくれなくて困っている
- 自分からは言い出しにくい
- でも、泣き寝入りはしたく無い
等の場合は迷わず労働組合が運営する退職代行サービスを利用することをおすすめします
まとめ
会社によっては辞める時に有給を認めないだけでなく、有給そのものを認めない・有給が認められるような雰囲気ではない、といった職場環境もあるかもしれません。
ですが、有給は労働者の権利です。そのため、有給の資格がある方でしたら堂々と権利を行使して構いません。
有給申請がスムーズに進むのであればそれが一番ですが、万が一にも会社から拒否された時は本記事を参考に理論武装の上、ご自身の権利を主張して有給の権利を勝ち取っていただければと思います。