運送会社で事故を起こして辞める際に、事故の責任はどうなるのか?どう辞めたら良いのか?について解説します。
運送会社で事故を起こして辞める際の責任の範疇
業務中にトラックなどを運転しているときに事故を起こしてしまったことで退職を検討する際、辞める側の労働者は事故に対する責任の範疇がどこまであるのでしょうか?
全額自己負担にはならない
勤務中に事故を起こした場合、仮に社内規定で「事故で損害が発生した際の費用は全額自己負担」などとされていても従う必要はありません。
(賠償予定の禁止)
労働基準法第16条
第十六条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
労働基準法第16条により、労働者側に予め損害賠償を定めておくことを前提とした契約は認められていません。
(使用者等の責任)
第715条
民法第715条 – Wikibooks
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
加えて、民法第715条より会社が事業のために雇った従業員が損害を起こした際は会社側が責任を追うことが明記されています。
危険責任の原理
会社側が責任を追わなくて話ならない理由としては、従業員に働いてもらって会社側も利益を得ている以上、従業員によって起こる危険に対しては従業員側に全負担させるのではなく、会社側も責任をとらなければならない、という理屈になります。(「危険責任の原理」と呼ばれる考え方になります。)
そのため、仮に雇用契約書や就業規則に全額自己負担と記載があってもそれ自体が違法の規約となるので会社から全額負担要請をされたとしても従う必要がありません。
事故に対する責任は誰がとるのか?
労働基準法第16条はあくまでも「労働者側に予め損害賠償を定めておくことを禁止するもの」であるので、過失により会社に損害を与えた労働者に対して会社が賠償請求自体を禁じるものではありません。
よって、事故によって発生した損害は会社側、労働者側、それぞれで負担することになります。
判例
業務でタンクローリーを運転中に事故を起こし、事故による損害の25%分を従業員に求償できる、と判断した例。
従業員が会社車両を運転中に人身事故を起こし、従業員に対して損害の約20%分の責任がある、と判断した例。
請求額を負担する具体的な割合は、最終的には従業員と会社との話合いにより決まりますが、判例から考えると労働者側の負担比率は20%前後と考えておくと良いでしょう。
勝手な天引きは違法行為に該当する
事故に対する賠償責任として会社側が従業員に対して費用を請求する際、従業員の許可なく請求費用分を天引きすると労働基準法24条違反となるので無効です。
(賃金の支払)
労働基準法 | e-Gov法令検索
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
労働基準法24条は、契約で定めた賃金を決まった日に全額支払いましょう、という意味になり、これは労働者の生活の安定を守るために定められています。
そのため、万が一にも同意なく給料から費用を天引きされていることがあれば会社は労働基準法違反になるので最寄りの労働基準監督署に相談してみてください。
運送業を辞めたい、という方は多い
運送業に転職して約1か月。辞めたいです。
大手運送会社と取引のある個人の運送会社に、当初正社員として入社しましたが、向き不向きを考慮され、社長から、個人でやった方がいいと言われ、使用中の社用車も譲渡するからと、とんとん拍子に手続きが進んでいて困惑しながらも受け入れていました。
社長自身は口はとても悪いのですが、仕事はしっかり教えてくれますし、根は優しい方ですが、正直辞めたいです。
体調崩して休みたい連絡入れたら、すごく怒られて(病院に行きたかったのですが、私の今のペースでは集配がなかなか終わらず、診療時間内に病院へ行けず、最悪な結果になり今に至ります)
受けた仕事全部断らないといけない、など電話口で色々言われ、穴を開けてしまう申し訳なさで、頑張って行きますとは言いましたが、とりあえず病院行ったら連絡くれ、と言われ電話を切りました。いろいろ手続きしてもらって不義理な私ですがもう仕事に行くのが辛いです。
支離滅裂ですが、こんな状態で辞められますか?どうしたら辞められますか。
運送業に転職して約1か月。辞めたいです。 – 大手運送会社と取引の… – Yahoo!知恵袋
運送業は素晴らしい仕事ではありますが、職場環境や業務の過酷さから辞めたいと考える人が一定数いるのも事実です。
そのため、無理をすることなくご自身の身を守るためにも「どうしても今の職場環境に耐えられない」という方は後述する確実に会社を辞める方法を参考に、体を壊してしまう前に転職や退職という選択肢も用意しておきましょう。
トラック運転手を辞めたあとの生活を守る手段
退職後は給与が止まるので生活費に対する不安と直面することになります。
そのため、失業者向けの支援制度には必ず申請しておきましょう。
失業手当を申請する
雇用保険の加入期間が1年以上(会社都合の場合は6カ月)であれば失業保険の受給が可能です。
失業後、勝手に手当が支給されるのではなく、受け取るには申請が必要なのでハローワークに行って手続きをしおきましょう。
給付金制度に申請する
少しでも金銭的な不安を無くしたい方、ご家庭に責任がある方は失業手当とは別に失業中の方の支援を目的とした「給付金(社会保険給付金サポート)」という国の制度があるので合わせて申請しておきましょう。
失業手当は通常3ヶ月しか受け取ることが出来ませんが、給付金なら最大28ヶ月に渡って給付してもらえる可能性があります。
以下の条件に該当する方は給付金対象となるので申請してしまいましょう。
【条件】
- 社会保険に1年以上加入している
- 退職日が本日から『14日以上、90日未満』
- 年齢が20歳~54歳
- 現時点で次の転職先が決まっていない
一般的には給付金制度はまだ知られていないことが多いので不明な点もあるかもしれませんが、少しでも該当しそうと思えたら「自分が該当するのか?」と一度問合せてみてください。それが一番確実です。(すでに退職してしまっている人でも対象になります。)
退職後の生活費に対する不安を少しでも無くすためにも退職時は必ず申請しておくことをおすすめします。
確実に会社を辞める方法
【前提】辞めさせてくれないことは違法
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
民法第627条
運送業に限らずですが、労働者の退職を認めないことは民法第627条違反となります。
トラック運転手はすぐ辞めるので引き止められやすい
トラック運転手は人手が不足しているので、退職を願い出ても引き止められることがあります。 ですが、民法第627条より従業員は退職の意思を伝えれば14日後以降に退職が出来ると定められており、雇用契約に期間の定めがない正社員であればいつでも退職届を提出することができます。
(強制労働の禁止)
労働基準法 第5条
第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
加えて、退職手続きを申し出たにもかかわらず辞めさせてくれないことは労働基準法 第5条違反にも該当します。
そのため、引き止められたとしても会社からの要請に従う必要は無く、退職しても問題はありません。
人手不足による退職について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
【注意】バックレだけは避ける
退職が受理されないからと突然バックレで辞めるのだけは避けた方が良いです。
「会社に迷惑がかかる~」といったことではなく(もちろんそれも理由の1つではありますが)、退職のルールが退職意思を伝えてから最短で2週間と定められている以上、突然のバックレ退職は法的に認められていない行為になります。
つまり、違法行為に該当するため万が一勤務先から訴えられたら高い確率で負けてしまいます。
- 損害賠償
- 嫌がらせ
- 呼び戻し
などご自身のプライベートに悪影響が及ぶ可能性もあるため、ご自身の身の安全や今後の人生設計を考えるのならトラブルが起こらない合法的な辞め方に徹した方が安全且つ確実です。
1.法に則って辞める
「【前提】辞めさせてくれないことは違法」でも触れたように、退職は法で定められた労働者の権利であり退職の2週間前から辞める旨を申告しておけば退職が成立します。また、会社側には労働者の退職を拒否する権限はありません。
雇用先によっては特殊な雇用契約書を結んでいる・特殊な就業規則になっている、などの可能性もありますが就業規則よりも法律が優先されますので退職の意思を伝えれば必ず退職が成立します。
- どうしても今の職場を辞めさせてもらえない
- でも、どうしても辞めたい
というご状況であれば法に則って「退職届を提出する」という具体的な退職の意思を示して辞めてしまいましょう。
退職届を直接渡す以外の形で辞める意思表示をする場合
- 配達記録付き内容証明郵便で退職届を郵送する
- 退職の旨を記載したメールを送る
- 録音しながら口頭で伝える
等の手段を用いて退職の意思(解約の申入れ)を明確に伝えましょう。
上述した民法に従い、解約の申入れの日から2週間経過すると退職が成立します。
退職の意思を証拠として残しておくことで法的な証明になります。普通の会社であれば本来ここまで徹しなくとも退職願いを出す、退職の旨を口頭で伝える、などで十分なのですが、退職をさせない様な労働環境であれば別。普通の会社ではないですから、労働者側も退職対策を徹底した方が良いです。
2.労働基準監督署に相談する
法に則って退職を申し出ても辞めさせてくれない場合、労働基準監督署に相談という手段もあります。
相談内容をもとに労働基準法違反と認められた場合、会社へ指導や是正勧告をしてもらうことが出来ます。
ただし、労働基準監督署はその立場からあくまで指導や是正勧告となり、個人のトラブル解決をかならず保証してくれるわけではありませんし、相談するにも用意する資料が多岐に渡ります。
そのため、
- 指導を受けたが一向に是正されない(退職が出来ない)
- 労働基準監督署に用意する資料を集めるのが大変
という方は以下の方法を検討してください。
3.どうしてもの際は退職代行に相談して辞める
- どうしても辞めさせてくれない
- 自分から切り出すのが難しい
- でも、すぐにでも辞めたい
という状況であれば労働組合による退職代行サービスを利用して辞めてしまいましょう。
確実に退職が成立します。
運送会社の退職トラブルにも対応
退職代行はお手持ちのスマホからLINEで申込み相談が可能、希望があれば即日から代行業者が動き出してくれます。
代行業者が動き出した瞬間から職場に行くことも連絡する必要も無くなるので、早ければ相談した即日から勤務する運送会社へ行かなくても良い状態になれます。
具体的には、
- 確実に退職が成立する
- 法律に則って退職処理するので法的なトラブルがない
- 自分で対応する必要が無いので退職にまつわるストレスが無い
などがあります。他にも、希望者には
- 退職後の転職支援
- 有給消化や残業の未払いなども変わりに交渉が可能
などもあり、退職代行費を支払ってでも利用するメリットがあります。
そのため、もしあなたが
- 退職を切り出してもどうしても辞めさせてくれない
- これ以上は自分で辞めるのが難しい
- でも、すぐにでも辞めたい
等の場合は迷わず労働組合が運営する退職代行サービスを利用することをおすすめします。
まとめ
運送業界のすべてが悪いわけではありません。あなたの勤務する職場が悪いだけです。
運送業界に限らずブラックな職場環境に悩む人は年々増えており、悩みが深い人ほど心身を壊してしまう傾向にあります。
そのため、どうしてもの際は我慢して泣き寝入りすることなく、ご自身の身の安全のためにも退職という選択肢を用意しておきましょう。