退職で引き継ぎを強要されるのはパワハラに該当
引き継ぎに法的な義務は無い
引き継ぎは法律で定められた規則や義務ではありません。お世話になった会社に対する気持ちとして行う業務です。
退職の際に引き継ぎ拒否も可能
よって、引き継ぎを拒否することもできますし引き継ぎをしないことで罰則が発生することもありません。
円満退社や一般的なマナーとしては引き継ぎは行った方が良いですが、事情があってどうしても対応が難しい時は引き継ぎ未対応でも退職は成立します。
退職時に引き継ぎの指示が無い場合
退職時は引き継ぎの指示が入りやすいものですが指示をもらえないこともあります。
お伝えしたように引き継ぎは義務ではないので対応せずとも法的な問題は発生しませんが、後になって会社側に難癖をつけられると手間ですから、事前に「引き継ぎの指示がありませんがいかがでしょうか?」などと一声かけて起きましょう。
その上で、指示があれば引き継ぎマニュアルを、無ければその旨を履歴に残した上で対応せずに残り期間を過ごせば問題ありません。(何月何日何時に誰が引き継ぎの指示をした・しなかった、などをメモに残しておきましょう。)
引き継ぎマニュアルを用意しておく
指示が無くとも引き継ぎをした方が良いと判断した場合、次の方が困らないように引き継ぎマニュアルを用意しておきましょう。
なお、引き継ぎ資料には以下を記載してください。
- 業務の社内での位置付け
- 業務の流れ(フローチャートなど)
- 業務に関わる社内外の関係者
- 過去に起こったトラブルやその対処法のノウハウ
- 顧客情報など必要なデータ
見ていただくとわかるように、業務や作業の繋がり・業務・作業に関わる関係者をそれぞれ明確化しておく資料になります。また、引き継ぎ資料は自分だけしかわからない言葉でまとめることなく、誰が見ても理解できる言葉でまとめてください。
強制労働は違法行為に該当
(強制労働の禁止)
労働基準法 第5条
第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
自発的に引き継ぎを行う、もしくは一般常識の範囲内で引き継ぎを要請されるならまだしも、過度に引き継ぎを強要され、且つ引き継ぎをしないことで労働者側に不利な条件を提示されるようでしたら「強制労働」と判断してください。
退職後に引き継ぎを強要されても従う義務は無い
引き継ぎに限らず労働を強要することは労働基準法 第5条に基づき違法行為に該当します。そのため、会社からの過度な引き継ぎの要請であれば無理に従う必要はありません。
引き継ぎトラブルで押さえておくべきポイント
退職での引き継ぎはどこまですべき?
引き継ぎに対して法的な規制がない以上、退職での引き継ぎはどこまですべきか?については明確な定義はありません。
会社と協議の上、「どこまで引き継ぎ対応をするか?」を定めるのが一般的な考えとなります。
退職する際に引き継ぎする後任がいない場合
後任がいない場合は直近の上司が引き継ぎ対象となるので上司に向けて引き継ぎ内容を伝えてください。
また、後日欠員補充として新しい社員が入社してあなたの業務を請け負うこともありますので、上司に伝えると同時に引き継ぎマニュアルも用意しておきましょう。
引き継ぎの際に後任がいない時の考え方について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
引き継ぎをしないことで損害賠償はできない
(賠償予定の禁止)
労働基準法第16条
第十六条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
原則として損害賠償ありきの労働契約を結ぶことは法律で禁止されています。そのため、退職に際して損害賠償を義務付けることは出来ません。
そもそも引き継ぎには法的な義務もありませんので、引き継ぎをせずに退職をしたとしても違法行為にはなりません。
合法の範疇での退職であれば賠償請求の正当性は成立しませんので、仮に損害賠償と言われても原則気にする必要はありません。
退職時の引き継ぎトラブルや注意点について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
引き継ぎが完了していなくとも有給は消化できる
第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
労働基準法第三十九条|e-Gov法令検索
有給は労働者の権利として認められており会社はその権利を拒否することはできません。また、有給の権利は退職すると消滅してします。そのため、有給が残っている場合は必ず退職前に有給を消化してしまいましょう。
もし引き継ぎが完了していないことで会社側に有給が認められないことがあれば会社側の違法行為に該当します。その為、要請に従うことなく労働者の権利である有給を消化することを優先して頂いて問題はありません。
時季変更権も退職時は無効
有給に対して会社側にも「時季変更権(会社が労働者の有給取得日の時期をずらせる権利)」がありますが、時季変更権は退職予定日を超えた行使はできません。
有給消化後に退職してしまうということは、他の時季に有給休暇を与えることができないということになるため、時季変更権を行使することができず有給申請者の請求が通ります。
要するに、有給消化と同時に退職予定の方には会社からの時季変更権が成立しないということです。
よって、仮に引き継ぎができていない状態出会ったとしても有給を利用して退職することは成立します。
退職時に有給が使えないトラブルへの対処法について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
万が一のトラブルを避けて退職する方法
1.民法第627条より2週間で辞める
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
民法第627条
民法第627条により退職の自由は労働者の権利として定められています。
仮に会社から引き止められたとしても会社には強制力はないので、退職が出来ないということはありません。
雇用先によっては特殊な雇用契約書を結んでいる・特殊な就業規則になっている、などの可能性もありますが就業規則よりも法律が優先されますので退職の意思を伝えれば(=退職届を提出する)必ず退職が成立します。
- どうしても引き継ぎハラスメントが止まらない
- どうしても今の職場に居続けるのが難しい
- でも、どうしても辞めたい
というご状況であれば法に則って「退職届を提出する」という具体的な退職の意思を示して辞めてしまいましょう。
退職届を受け取ってもらえない場合
事情があり退職届を直接渡すことが出来ない、もしくは相談したのに受け取ってもらえない場合は配達記録付き内容証明郵便で退職届を郵送してください。
会社側に退職届が届けられたことが証明できるため退職の意思を伝えた証拠になります。
また他にも
- 退職の旨を記載したメールを送る
- 録音しながら口頭で伝える
等の手段を用いて退職の意思(解約の申入れ)を伝えるのも有効です。
口頭で伝えることもできますが、中には「言った・言わない」とうやむやにされる可能性もあるため、退職届をはじめとして何かしらの証拠を残して伝えた方が確実です。
なお、会社側が退職拒否をしてきた場合「在職強要」となり違法行為に該当しますので会社の要請を受諾する必要はありません。詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
2.ハラスメントを訴えて辞める
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働契約法 | e-Gov法令検索
ハラスメントは労働者の心と体の安全に影響がある行為であり、労働契約法5条に基づき使用者である会社側が労働者の生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができる環境を用意できていない、となります。
加えて、ハラスメントはハラスメント防止法(正式名称:改正労働施策総合推進法)違反にも該当します。
いずれの場合でも法律に反した状況であることに違いは無いので、会社側には「身の安全が保障されないため」と伝えてご自身の退職処理を進めましょう。
ハラスメント被害による退職について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
3.どうしてもの際は退職代行に相談する
- 自分で退職対応をするのが難しい
- 退職相談をしたのに辞めさせてくれない
- でも、どうしても辞めたい
などのご状況であれば労働組合が運営する退職代行サービスに相談して辞めてしまいましょう。
確実に退職が成立します。
退職代行はお手持ちのスマホから電話やLINE(メールでも可)か相談が可能。希望があれば相談したその日から代行業者が動き出してくれます。
代行業者が動き出した瞬間からあなたは職場に行くことも連絡する必要も無くなるので、早ければ相談した即日から会社に行かなくても良い状態になれます。
具体的には、
- 確実に退職が成立する
- 法律に則って退職処理するので法的なトラブルがない
- 自分で対応する必要が無いので退職にまつわるストレスが無い
等があります。
そのため、あなたが
- 自分で退職対応をするのが難しい
- 退職相談をしたのに辞めさせてくれない
- でも、どうしても辞めたい
という状況であれば労働組合が運営する退職代行サービスに相談して辞めてしまいましょう。
まとめ
引き継ぎは退職時のマナーではありますが、ハラスメントレベルで強要されることではありません。
引き継ぎをやらないで良いという話ではありませんし、これまでお世話になった職場に対してできる限りの範疇では対応した方が好ましいですが、事情があってどうしても対応が難しい時はご自身ができる範囲で引き継ぎを行っていただければ十分。
それ以上を求められる場合は無理する必要はないので、割り切って対応してしまいましょう。
どうしてもパワハラがしつこい時は以下の記事もご参考になさってください。