体調不良で勤務が難しいのに派遣契約を辞めさせてもらえないで悩んでいる際、自分の退職を成立させる方法、および退職時の注意点について解説します。
体調不良なのに派遣を辞めさせてくれない時でも退職する方法
【注意】原則は契約期間満了
派遣社員はそのほとんどが有期雇用派遣(期間の定めがある契約内容)として契約しています。
(契約の解除等)
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 第二十七条
第二十七条 労働者派遣の役務の提供を受ける者は、派遣労働者の国籍、信条、性別、社会的身分、派遣労働者が労働組合の正当な行為をしたこと等を理由として、労働者派遣契約を解除してはならない。
体調不良での退職は契約期間途中での解約(退職)になるかと考えられますが、有期雇用派遣は契約期間途中での退職は原則として認められないので、ちょうど契約満了のタイミングでもない限りは「すぐに辞めたい」と思っても難しいのが実情です。
担当が相手にしてくれないのも仕方がない
派遣の担当営業に相談しても積極的に問題に対処してくれないことも少なくありません。
営業も数字(派遣社員を何人企業に派遣したか?)を追いかけており、できる限り途中で辞めて欲しくないという前提があります。そのため、積極的に相談に乗ってもらえないとしても、ある意味では仕方のない反応でもあります。
こうした事情が前提としてある中で、例外的に体調不良による契約期間中での退職を成立させる条件は以下になります。
1.診断書を提出する
体調不良を証明した診断書を用意して派遣元に提出しましょう。
病気やケガなどから派遣就業の継続が難しくなった旨を診断書によるドクターストップという形で伝えます。
精神的な問題であれば心療内科へ
直接的なけがや病気という身体的な問題とは別に、職場環境、ハラスメント被害などで精神的なトラブルが影響し、その結果として体を壊す・体調不良になった場合は心療内科に診てもらった上で体調不良の因果関係を証明するために診断書を用意してください。
診断書を用意してもらうことで精神的なトラブルが職場環境にあると証明をしやすくなります。
義務ではないが強力な証明になる
派遣会社によっては問題があったときの証明として診断書の提出義務を明記している場合もありますが、基本的には診断書の提出は必ずしも義務化されているわけではありません。
そのため、用意が無く口頭で相談するだけでも話が進むこともありますが、体調不良を相談した上で辞めさせてくれない現状がある場合は診断書を用意して派遣元、および勤務先に理解してもらいましょう。
(強制労働の禁止)
労働基準法 第5条
第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
ドクターストップがかかった上で無理に勤務させることは強制労働に該当するので認められていません。
診断書は必ず自分から要請する
なお、診断書は自分から要請しなければ用意してもらえませんので、病院で診てもらう際は先生に診断書を書いてもらうようご自身で忘れずに伝えてください。
体調不良による派遣の退職について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
2.派遣元に連絡し、双方合意の上で辞める
診断書が無く、口頭で体調不良を伝えるだけでも双方の合意になれば退職が成立します。
(やむを得ない事由による雇用の解除)
民法第六百二十八条
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
働く期間の定めがある有期雇用派遣であっても、民法628条より「やむを得ない事由」がある場合は雇用解除が可能になります。
体調不良により業務が出来ない場合はやむを得ない事由として成立しますので、「体調不良のため辞めたい」と派遣会社へ電話して連絡してください。メールでも構いませんが電話の方がスピーディーな対応になります。
他にもやむを得ない事由には以下が該当します。
【やむを得ない事由の例】
- 契約外の仕事をさせられる
- 使用者が労働者の生命・身体に危険を及ぼす労働を命じた
- 派遣先の上司からパワハラやモラハラを受けている
- 賃金不払いなどの重要な債務不履行が発生した
- 労働者自身が負傷・疾病・心身の障害などにより就業不能に陥った
- 親や家族の介護が必要になった
- 家族の転勤などにより急な引っ越しが決まった
- 業務内容が法令に違反している
- 両親や子供の病気、または介護など
など
3.労働条件の相違
(労働条件の明示)
労働基準法第15条
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
労働基準法第十五条より、労働条件の相違は即時に契約解除(即日退職)が認められています。
雇用契約書と実際の現場での労働条件・仕事内容が異なる場合、その旨を派遣元に伝えれば体調不良とは関係なしに即日退職を成立させることができます。
「体調不良は認められない、でも業務内容は異なる」という状況であれば、労働条件の相違を前面に出して退職をしてしまいましょう。
労働条件の相違と退職について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
4.ハラスメントの被害に遭った場合
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働契約法 | e-Gov法令検索
ハラスメントは労働者の心と体の安全に影響がある行為となります。そのため、ハラスメント被害に遭ったということは、労働者の生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができる環境を用意できていない、となります。
つまり、会社側の労働契約法5条違反となります。
加えて、ハラスメントはハラスメント防止法(正式名称:改正労働施策総合推進法)違反にも該当します。
いずれの場合でも法律に反した状況であることに違いは無いので、派遣元に「ハラスメント被害に遭い、身の安全が保障されない」と出社できない旨を伝えて退職処理を進めましょう。
なお、ハラスメントによって心身の不調が見受けられた場合は「1.診断書を提出する」に従い心療内科で診てもらい、診断書を用意してもらうことで退職を要求することもできます。
ハラスメント被害による退職について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
5.勤務期間が1年以上経過している
第百三十七条 期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が一年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第十四条第一項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成十五年法律第百四号)附則第三条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第六百二十八条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から一年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。
労働基準法137条
派遣会社と有期雇用派遣として契約をしている状況であっても、労働基準法137条より勤務期間が1年以上経過している場合に限り労働者側の希望するタイミングでいつでも退職ができるため即時解約(即日退職)が成立します。
つまり、1年を経過していれば体調不良とは関係なく「派遣を今日で辞めます」と契約途中で中途解除を申し出ても法律上は成立します。
体調不良での退職が仮に認められなくとも、勤務実績が1年以上ある場合は労働基準法137条を理由に即時解約(退職)を進めてください。
6.どうしても辞めさせてくれない時は退職代行に相談する
- 派遣会社に相談しても辞めさせてもらえない
- 派遣を辞めると伝えたのに連絡がこない
- 自分から退職を切り出すのが難しい
- 今の職場環境には耐えられない
- でも、すぐにでも辞めたい
という状況であれば、労働組合が運営する退職代行サービスに相談して即日で辞めてしまいましょう。
派遣に対する辞めにくさを感じていたとしても退職代行に相談すれば確実に退職が成立します。
退職代行はお手持ちのスマホから電話やLINE(メールでも可)で申込み相談が可能、希望があれば即日から代行業者が動き出してくれます。
代行業者が動き出した瞬間から職場に行くことも連絡する必要も無くなるので、早ければ相談した即日から会社に行かなくても良い状態になれます。(=実質的な即日退職)
具体的には、
- 派遣社員でも確実に辞めることができる
- 派遣会社や派遣先に自分から連絡する必要は無い
- 派遣会社側から退職を拒否されることも無い
などが成立しますので、あなたが代行サービスに支払う代金以上の利用メリットがあります。
そのため、あなたが
- 今の派遣先や派遣会社は合わないので続けられない
- すぐにでも辞めたいのに辞めさせてもらえない
- でも、どうしても辞めたい
という状況であれば労働組合が運営する退職代行サービスの活用をおすすめします。
明日から行きたくない!とまで悩み苦しんでいるなら、もう我慢しないでください。
派遣先を辞める際の注意点
a.バックレや無断欠勤は避ける
派遣先が嫌だと感じたとしてもバックレだけは避けてください。
バックレによる退職は法的に認められていないため、辞めた後で万が一にも損害賠償請求や呼び戻しなどのリスクが残ります。また、登録先の派遣会社から次の仕事を用意してもらえなくなる危険性もあります。
辞める際はバックレることなく、事前に派遣元に退職を伝えてから辞めましょう。
b.派遣元に相談する
退職の相談は就業先ではなく「派遣元」に相談してください。
勤務している職場(派遣先)にはあなたの雇用に関する権限はありません。あなたの雇用主は派遣元になりますので、退職相談は必ず派遣元に行ってください。
c.休職は期待しない方が良い
派遣先企業が理解してくれ、且つ派遣元も許可してくれる場合は休職が認められることはあります。
ただし、派遣社員は一時的な人員補充のために採用されているので長期休暇の取得は難しいことが多いです。そのため、一般的に休職できる可能性は低いと考えておきましょう。
d.給与は支払われる
契約途中の退職となっても勤務実態は認められますので勤務した分の給与は認められます。
(賃金の支払)
労働基準法第24条
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
② 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
労働基準法第24条では、賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない、と規定されています。従って、働いた分はその全額が支給されなければなりませんので会社は派遣社員に賃金を支払う義務があります。
1週間という短期間勤務だとしても給与を派遣元に請求することに何も問題ありません。
e.損害賠償請求は気にする必要は無い
(賠償予定の禁止)
労働基準法第16条
第十六条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
原則として損害賠償ありきの労働契約を結ぶことは法律で禁止されています。そのため、仮に契約途中で退職したとしても退職に対して損害賠償を義務付けることは出来ません。
加えて、仮に責任がかかるとするなら派遣社員ではなく派遣社員を出向させた「派遣元」に責任がかかります。そのため、派遣社員自身が賠償責任を負う必要は原則としてはありません。
f.備品は返却する
派遣先の会社で備品(社員証、スマホ、PC、制服など)を受け取っている場合、派遣先もしくは派遣会社に備品を返却しましょう。
g.私物をあらかじめ回収しておく
派遣先に私物を残している場合、誤って処分されてトラブルになる可能性があります。そのため、退職日までに私物を持ち帰っておきましょう。
場合によっては派遣先に私物を置き忘れた場合は後日派遣会社の営業担当が回収し、後日派遣社員宅に郵送してくれることもありますが確実ではありません。
そのため、派遣元に事情を伝えたのち派遣社員が回収してくれるのか?それが難しい時は退職後に着払いで送ってもらうように伝えてください。
まとめ
契約期間というルールがあるとはいえ、体調不良にも拘わらず辞めることが出来ないのは決して正しい状況とは言えません。
ご自身の健康や身の安全が第一です。
我慢して溜め込むことなく、まずは派遣元に正直に相談して今後の対処を協議しましょう。その上で、どうしても退職が認められない時は別の理由から辞めるか、退職代行に相談して退職処理を進めてください。