「退職届を出して翌日から仕事に行かない状態になりたい」
どうしても今の職場に我慢できず、退職届を提出してすぐにでも辞めたい時に退職が成立する条件、およびすぐに退職できる手段について解説します。
退職届を出して次の日から行かない状態ができる例外条件
先にお伝えすると、仕事を次の日から行かない状態になることは可能です。
ただし、退職の仕組みは原則として就業規則、もしくは民法第627条によって定められており、いずれの場合でも退職届を出して次の日から会社に行かない状態になれるとは定められていません。
そのため、退職届を出した翌日から仕事に行かないようにするには以下の例外的な条件を満たしている必要があります。
A.労働条件の相違
(労働条件の明示)
労働基準法第15条
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
労働基準法第十五条より、労働条件の相違は即時に契約解除(即日退職)が認められています。
入社時に会社から受け取った雇用契約書と実際の現場での労働条件・仕事内容が異なる場合、労働基準法第15条違反に該当するので即時退職が成立します。
多少なりとも気持ちに余裕があるならいきなり辞めずに労働条件の相違を会社に伝え、労働環境や業務内容を是正してもらうよう働きかけることから始めて良いでしょう。ですが、働きかけても一向に聞き入れてもらえない時は即日退職してしまい次のキャリアを模索してください。
以上のことから労働基準法第15条に基づき退職届を提出すれば次の日から仕事に行かない状況が成立します。
労働条件の相違について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
B.やむを得ない事由による合意退職
(やむを得ない事由による雇用の解除)
民法第628条
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
民法第628条より、やむを得ない事由が発生した場合は会社と労働者、双方の合意に基づき即日退職が成立します。
やむを得ない事由としては怪我・病気、家族の介護、出産などによりどうしても勤務が出来ない場合が該当しますが、事情により勤務の継続が難しくなり、その旨を会社が認めてくれると双方の合意となり即日退職が成立します。
よって、合意がなされた後すぐに退職届を用意すれば次の日から会社に行かないでも良い状態になれます。
C.民法第627条と有給休暇の併用
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
民法第627条
民法第627条により退職の自由は労働者の権利として定められています。
雇用先によっては特殊な雇用契約書を結んでいる・特殊な就業規則になっている(辞める○ヶ月前に退職を申告する必要がある、など)可能性もありますが就業規則よりも法律が優先されます。
そのため、退職の意思を伝えて2週間を経過すれば法律上、必ず退職が成立します。
就業規則には法的な強制力は無く、会社から労働者に対するお願いに該当するものとなります。
2週間を有給消化して辞める
民法第627条で退職までに最短でも2週間が必要とされていますが、その期間は必ず勤務していなくてはいけないとは決められていません。
よって、退職の意思を伝えてからその後の2週間は有給で過ごして退職することで実質的な即日退職と同じ状況を作ることが出来ます。
第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
労働基準法第三十九条|e-Gov法令検索
有給は労働者の権利として認められており会社はその権利を拒否することはできません。その為、仮に会社側から有給の取得が認められなくとも従う必要はありません。
退職時に有給が使えないトラブルへの対処法について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
また、有給は正社員だけの権利ではなく正社員、派遣、パート問わず条件を満たせば有給という権利が皆一様に発生しますので雇用契約内容に関わらず有給の条件を満たしていれば誰でも有給を申請・消化することが可能です。
なお、以下の条件を満たせば有給の権利が生まれます。
- 入社から6ヶ月間継続して働いている
- 労働日のうち8割以上出勤している
勤務期間にもよりますが最短で10日、最大で40日間有給を取得できるので、使える有給の日数から逆算して退職を伝え日を決めてください。
有給日数について詳しくは以下の記事にある「退職で使える有給消化は最大で40日」もご参考になさってください。
時季変更権は無効
使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
労働基準法第39条5項
有給に対して会社側にも「時季変更権(会社が労働者の有給取得日の時期をずらせる権利)」がありますが、時季変更権は退職予定日を超えた行使はできません。
つまり、有給消化後に退職してしまうということは他の時季に有給休暇を与えることができないということになるため時季変更権を行使することができず、これから辞める人間には時季変更権は適応されないので有給申請者の請求は必ず通ります。
有給が無い時は欠勤扱いで即日退職を
- 退職日まで有給が足りない
- そもそも有給の権利がまだない
という方であれば代替案として有給の代わりに欠勤扱いにしてもらい退職が成立するまでの2週間を消化させれば問題ありません。2週間消化できたらそのまま辞めてしまいましょう。
有給が無い場合での辞め方について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
【補足】給料は反映されない
欠勤は有給とは異なり欠勤した分の日数は給与に反映されません。
そのため、欠勤による退職は「給与云々の問題ではなくどうしても会社を辞めたい!」「辞めなければいけない状況になった」という方向けの選択肢となることを予め理解しておきましょう。
どうしても辞めたい!という状況での退職について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
ここでの内容は一般マナーや感情論などは抜きに、事実として法的に成立する手順・選択肢としてお考えください。
【大事】退職届を出したら行かなくていいのではなく条件が重要
大事なことは法的に労働者が退職できる条件を満たすことです。
条件を満たした上で退職届を用意すれば法的に退職が成立します。
退職届を置いて帰るだけでは成立しないので注意
なお、仮に退職届を置いて帰るだけでは退職は成立しません。それだけで辞めようとするとバックレや無断欠勤による退職としてカウントされる可能性もありますので必ず条件を満たした上で退職届を上司に渡して退職処理としてください。
即日退職をしたいだけなら他にもやり方はある
次の日から会社に行かない、つまりすぐにでも会社を辞めたい状況・即日退職を希望する状況であるなら他にも手段はあります。
事実として即日退職をしている方は居ます。
民法第627条や就業規則があるとは言えど、すぐに会社を退職する、もしくは会社に行かない状況を作ることが出来ることもまた事実です。
大事なことはバックレや無断欠勤による退職などではなく、合法的に仕事を次の日から行かない状態にできる条件を知ること・用意することにあります。
例えば以下の条件であればすぐに退職することが可能です。
1.ハラスメント被害を受けている場合
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働契約法 | e-Gov法令検索
ハラスメントは労働者の心と体の安全に影響がある行為であり、労働契約法5条に基づき使用者である会社側が労働者の生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができる環境を用意できていない、となります。
加えて、ハラスメントはハラスメント防止法(正式名称:改正労働施策総合推進法)違反にも該当します。
パワハラにより明日から行きたくない旨を伝える
いずれの場合でも法律に反した状況であることに違いは無いので、会社側には「身の安全が保障されないため」と伝えてご自身の退職処理を進めましょう。
ハラスメント被害による退職について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
2.ドクターストップの場合
「B.やむを得ない事由による合意退職」でも触れたように、事情がある場合は例外的に退職が認められます。
- 怪我や病気等があり勤務の継続が難しい
- 勤務することが原因でうつ病や適応障害などが起こり勤務の継続が難しい
といった際にドクターストップがかかったら退職が成立します。
強制労働の禁止
(強制労働の禁止)
労働基準法 第5条
第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
ドクターストップがかかったのにもかかわらず辞めさせないで働かせるなら労働基準法第5条違反(強制労働の禁止)となるので認められません。
会社側には労働者を強制的に働かせる権利はありませんので、ドクターストップがかかった旨を伝えて退職処理を進めましょう。
診断書を用意する
特にうつ病や適応障害など心理的な問題は周囲からの理解が難しいことがありますので、その際は診断書を用意してもらい会社側に伝えましょう。
診断書があることで客観的に勤務継続が難しいことが証明できるので退職の正当性を伝えることが出来ます。
3.どうしてもの際は労働組合による退職代行に依頼する
- 自分から退職を切り出すのが難しい
- 退職相談しても辞めさせてくれない
- でも、どうしても辞めたい
という時は労働組合が運営する退職代行サービスに依頼して辞めてしまいましょう。
確実に退職が成立します。
退職代行はお手持ちのスマホからLINEで申込み相談が可能。また、希望すれば即日から代行業者が動き出してくれます。
代行業者が動き出した瞬間からあなたは職場に行くことも連絡する必要も無くなるので、早ければ相談した即日から会社に行かなくても良い状態になれます。
具体的には、
- 確実に退職が成立する
- 法律に則って退職処理するのでトラブルがない
- 自分で対応する必要が無いので退職にまつわるストレスが無い
などがあり、希望者には有給や未払いの交渉もしてくれます。
そのため、もしあなたが
- 辞めたいけど自分では言い出せない
- でも、どうしても辞めたい
等の場合は迷わず労働組合が運営する退職代行サービスを利用することをおすすめします。
次の日から会社に行かないで辞める際の注意点
すぐに退職できる条件があるとしても自由勝手に退職して良いわけではありません。
そのため、退職時は以下に注意しながら退職処理を進めてください。
バックレは避けた方が良い
どうしても会社に行きたくない、という思いがあったとしてもバックレだけは避けてください。
バックレや無断欠勤による退職は認められていません。そのため、バックレによる退職を行うと違法行為となり労働者に対して損害賠償請求や懲戒解雇を与えられる危険があります。
中でも懲戒解雇になると以下の問題が起こります。
- 本来貰えるはずだった退職金の一部または全部不支給
- 転職時にマイナスな印象を与えることになる
また、懲戒解雇になると転職活動時に相手先に伝えなければ経歴詐称になるので必ず伝える必要があります。つまり、懲戒解雇になるとその事実が必ず転職先にはバレますので今後の転職活動においてご自身の印象が悪くなり不利益しかありません。
以上のことから、法に基づかない即日退職行為だけは控えた方が良いです。
辞めるなら法に則って確実・安全に辞めましょう。
備品の返却
スマホ、PC、制服、社章など会社から借りている備品はかならず返却してください。返却しないと後でトラブルの原因になります。
直接渡しに行くか、それが難しい時は備品をまとめて会社に郵送してください。
私物を回収しておく
私物が残っていると会社側が誤って破棄してしまう可能性がありますので、辞める前に私物を持ち帰っておきましょう。
なお、どうしても残ってしまう時は着払いの郵送で自宅に送ってもらうよう会社側に伝えてください。
損害賠償請求は気にする必要は無い
(賠償予定の禁止)
労働基準法第16条
第十六条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
原則として損害賠償ありきの労働契約を結ぶことは法律で禁止されています。
そのため、バックレや無断欠勤などせず、ただ退職するだけの行為に対して損害賠償を義務付けることは出来ません。
仮に一般的な退職行為において損害賠償請求をされても「脅し」で使われるだけで強制力はなく、従う必要もありません。
辞めることに躊躇がある方は以下の記事もご参考になさってください。
引き継ぎは必須ではない
引き継ぎは法律で定められた規則や義務ではなく、お世話になった会社に対する気持ちとして行う業務です。よって、引き継ぎを拒否することもできますし引き継ぎをしないことで罰則が発生することもありません。
仮に「引き継ぎができていないから退職は認めない」などと言われたとしても法的な強制力は無いので従う必要ありません。
円満退社や一般的なマナーとしては引き継ぎは行った方が良いですが、事情があってどうしても対応が難しい時は引き継ぎ未対応でも退職は成立します。
退職時の引き継ぎについて詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
退職の書類を確認する
- 雇用保険被保険者証
- 年金手帳
- 源泉徴収票
- 離職票
- 扶養控除等(異動)申告書
- 健康保険被扶養者(異動)届
- 給与振込先届
- 健康診断書
などが退職時に必要な書類となり、退職後の失業手当の申請、次の会社に入社する際の手続きなどで必要になります。
退職後に会社側から書類を送ってもらうことが一般的な流れなので過度に心配する必要はありませんが、しばらくしても送られてこない時は会社側に連絡をしてください。
【補足】パートが明日から行かない場合は契約内容次第
パートの退職も基本的には正社員や派遣社員と同じであり、「退職届を出して次の日から行かない状態ができる例外条件」「即日退職をしたいだけなら他にもやり方はある」でお伝えした条件に該当すれば明日から行かないで良い状態になれます。
パートの退職について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
明日から仕事に行かない方法・選択肢は用意しておこう/まとめ
退職届を提出して翌日から会社に行かなくて良い方法や条件はあります。
イメージだけで言えばすぐに辞める行為は印象が良くないと思われがちですが、バックレや無断欠勤による退職などを行わず、法に則った対応をするなら退職は労働者の権利でしかなく問題はありません。
そのため、どうしても我慢ができない状況であれば本記事でお伝えした退職条件の選択も検討していただき、退職処理を進めてみてください。
また、どうしてもご自身で退職を切り出すのが難しい時は退職代行という選択肢も検討してみてください。