「辞めさせてくれない」「在職を強要される」といった際に試してして欲しい、労働基準監督署への相談をはじめとした対策を解説しています。
在職強要で労働基準監督署に相談する際の注意点
退職の相談をしても引き延ばしや在職の強要があり会社側が態度を変えてくれない場合、企業の管轄の労働基準監督署(労基)へ相談しましょう。
相談内容をもとに労働基準法違反と認められた場合、会社に指導や勧告をしてもらうことが出来ます。
労働基準監督署を動かすには直接相談が必要
労働基準監督署は労働問題に対して動いてくれます。「退職させてくれない」ということは労働問題の一環になるので、まずは労働条件相談ほっとライン(TEL:0120-811-610)に電話してみましょう。
なお、電話では問題に対するアドバイスのみの対応となるので、会社への調査や是正勧告まで行ってもらうなら電話後に労働基準監督署に出向いて相談してください。
指導に強制力はない
労働基準監督署にも「できること」が限られており、必ずしも個人の問題を解決する保障をしてくれるわけではありません。
労働基準監査署は労働者からの相談を受けた企業に対して改善するよう指導や勧告を行いますが、あくまで指導であり強制力のある命令は出来ません。そのため、指導を受けたからと言って会社側が対応を改善しないこともあるため、必ずしもあなたが会社を辞めることが出来るとは限りません。
あっせんも強制力があるわけでは無い
ただの指導よりも強力な措置としては「あっせん」があります。
紛争当事者の間に、公平・中立な第三者として労働問題の専門家が入り、双方の主張の要点を確かめ、調整を行い、話し合いを促進しますので退職に関するアドバイスもしてくれますが、あっせんも自主的な解決を促進するものであり、話合いの促進のためにあっせん案を提示するのみとなりますので強制力があるわけではありません。
そもそも在職強要とは?
在職強要は労働者が退職しないように引き止める行為のことで、違法性が認められることがあります。そのため基本的には会社側の要請に従う必要はありません。
退職の引き止めがしつこい理由
- 人手不足により辞めさせたくない
- 新たに後任を確保するるためにお金がかかる
- 後任者を教育するための時間と労力がかかる
- 上司の管理責任能力が問われる(査定に響く)
- パワハラ・いやがらせ
などの理由からしつこく退職を引き止められることがあります。
人手不足や人材育成に関しする責任は会社側であり、労働者側には責任は無いので要請されたとしても従う義務はありません。
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働契約法 | e-Gov法令検索
パワハラ・いやがらせに関しては相手(労働者側)に心理的な負担を強いる事になりますが、労働契約法5条より義務付けられている「会社は労働者の身の安全を確保する」という条件に違反しているので違法行為に該当します。
いずれの場合においても責任は会社側にあり労働者側に非が無いので「在職強要されたときの解決方法」の内容を元に退職処理を進めてしまいましょう。
人手不足で辞めさせてくれない時は以下の記事もご参考になさってください。
在職強要は違法に該当することが多い
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
民法第627条
(強制労働の禁止)
労働基準法 第5条
第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
労働基準監督署の指導には強制力がないとお伝えしましたが、在職強要が違法性の高い行為であることには違いありません。
民法第627条により退職の自由を労働者の権利として定めています。また、労働基準法 第5条より会社側は労働者の意思に反した労働を強制してはいけないと定められています。
自主的に退職することは労働者の権利であり、辞めたがっている労働者に対して会社側がやめさせようとせず在職を強要することは民法、労働法それぞれの観点から違法行為になります。
そのため、会社からの在職の要請には従う必要はなく退職届を渡して退職の意思を会社側に伝えてしまえば労働基準監督署の指導の有無を問わず法的に退職を成立させることは可能です。
在職強要による会社からの引き留めが酷い場合、訴えることも念頭に置いた上で以下の記事もご参考になさってください。
在職強要に対する罰則
在職強要に該当する労働基準法第5条に違反した場合、会社は1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金に処されます。そのため、泣き寝入りする必要はありません。
引き留めがあっても確実に退職する手段
仮に労働基準監督署からの指導だけでは退職を成立させることが難しかったとしても、法的な観点から対応すれば辞めることが出来ます。
1.退職届を用意して直接渡す
民法第627条より退職時は解約の申入れが必要になります。
口頭で伝えることもできますが、中には「言った・言わない」とうやむやにされる可能性もあるため、退職の意思を伝えたことを証拠として残した方が確実です。そのため、退職届という形にして会社側に直接渡しましょう。
退職届の提出後14日で法的にあなたの退職は成立します。
受け取ってもらえない場合
辞めると伝えても認めてくれない
退職届を受け取ってもらえない
というトラブルが起きた場合は
- 退職届を内容証明郵便で会社に送る
- メールで退職を伝えて履歴を保存しておく
- 録音しながら電話で伝える
などで伝えてください。
それぞれ退職の意思を伝えたことになり、且つ証拠としても証明できます。
普通の会社であれば本来ここまで徹しなくとも退職願いを出す、退職の旨を口頭で伝える、などで十分なのですが、退職をさせない様な労働環境であれば別。普通の会社ではないですから、労働者側も退職対策を徹底した方が良いです。
退職届が受理されない時の対応についてより詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
どうしても辞められないという時は以下の記事もご参考になさってください。
2.有給の利用
第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
労働基準法第三十九条|e-Gov法令検索
有給は労働者の権利として認められており会社はその権利を拒否することはできません。
有給は正社員だけの権利ではなく正社員、派遣、パート問わず条件を満たせば有給という権利が皆一様に発生します。
業種、業態にかかわらず、また、正社員、パートタイム労働者などの区分なく、
有給休暇の付与日数|厚生労働省
一定の要件を満たした全ての労働者に対して、年次有給休暇を与えなければな
りません(労働基準法第39条)。
民法第627条で退職までに最短でも2週間が必要とされていますが、その期間は必ず勤務していなくてはいけないとは決められていません。
そのため、退職届を私て退職の意思を伝えてからその後の2週間は有給で過ごすことで実質的な即日退職と同じ状況を作ることが出来ます。
なお、2週間未満の有給しかない場合は退職を成立させるまでに休暇の日数が不足してしまうことになります。その際の不足分は「欠勤扱い」にしていただき代用してください。
3.どうしてもの際は労働組合による退職代行に相談する
- 在職強要や引き止めが強い
- どうしても辞めさせてくれない
- 自分で退職を切り出すのは難しい
- でも、どうしても辞めたい
とという方であれば労働組合が運営する退職代行サービスに相談して辞めてしまいましょう。
なぜなら、確実に退職が成立するからです。
退職代行はお手持ちのスマホから電話やLINE(メールでも可)か相談が可能。希望があれば相談したその日から代行業者が動き出してくれます。
代行業者が動き出した瞬間からあなたは職場に行くことも連絡する必要も無くなるので、早ければ相談した即日から会社に行かなくても良い状態になれます。
具体的には、
- 確実に退職が成立する
- 法律に則って退職処理するので法的なトラブルがない
- 自分で対応する必要が無いので退職にまつわるストレスが無い
等があり、有給消化や未払いの交渉もしてくれますので退職代行費を支払う以上の利用メリットがあります。
そのため、あなたが
- 自分から退職を切り出すのが難しい
- 切り出したとしても辞めさせてもらえない
- でも、どうしても辞めたい!
という状況であれば労働組合が運営する退職代行サービスの活用をおすすめします。
退職する際の注意点
【注意】バックレによる無断欠勤は違法なので控える
民法第627条があるため、一部の条件を除き原則として即日退職は認められていません。そのため、バックレによる即日退職を行うと「違法行為」となり労働者に対して損害賠償請求や懲戒解雇を与えられる危険があります。
中でも懲戒解雇になると以下の問題が起こります。
- 本来貰えるはずだった退職金の一部または全部不支給
- 転職時にマイナスな印象を与えることになる
また、懲戒解雇になると転職活動時に相手先に伝えなければ経歴詐称になるので必ず伝える必要があります。つまり、懲戒解雇になるとその事実が必ず転職先にはバレますので転職活動においてご自身の印象が悪くなり不利益しかありません。
他にも嫌がらせや呼び戻しなどの可能性もあり、バックレは退職行為に対するリターンとリスクを加味した際にリスクが大きすぎて帳尻が合わない行為と言えます。
ご自身の身の安全や今後の人生設計を考えるのならトラブルが起こらない合法的な辞め方に徹した方が安全且つ確実です。そのため、法に基づかない即日退職行為だけは控えた方が良いです。
【参考】退職代行による退職は無断欠勤には該当しない
退職代行を利用した場合は代行業者があなたに代わって「退職まで当事者は欠勤いたします。」といった内容を伝えるため無断欠勤には該当しませんので心配する必要はありません。
損害賠償請求は原則、気にする必要は無い
(賠償予定の禁止)
労働基準法第16条
第十六条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
原則として損害賠償ありきの労働契約を結ぶことは法律で禁止されています。そのため、退職したことに対して損害賠償を義務付けることは出来ません。
損害賠償は第三者が見ても辞めることで会社に多大な悪影響を残したときに検討されます。例えば退職時に多くの同僚を一緒に引き抜いて辞めた、退職時に会社のインサイダー情報を公開した、などが該当しますが、ただ退職するだけであれば会社に多大な悪影響を残したとは認められにくいので原則として退職時の損害賠償は気にする必要はありません。
引き継ぎは義務ではない
退職時に引き継ぎをしていないことを懸念される方もいますが、引き継ぎは法律で定められた規則や義務ではなく、お世話になった会社に対する気持ちとして行う業務です。
よって、引き継ぎを拒否することもできますし引き継ぎをしないことで罰則が発生することもありません。
備品を返却する
スマホ、PC、制服など会社から借りている備品はかならず返却してください。返却しないとあとでアレコレ言われる可能性があるので綺麗に辞めにくくなります。
直接渡しにいくか、それが難しい時は備品をまとめて会社に郵送すれば問題ありません。
退職後の書類を確認する
- 雇用保険被保険者証
- 年金手帳
- 源泉徴収票
- 離職票
- 扶養控除等(異動)申告書
- 健康保険被扶養者(異動)届
- 給与振込先届
- 健康診断書
など、退職時に必要な書類を会社から郵送してもらうよう会社側に伝えましょう。退職後の失業手当の申請、次の会社に入社する際の手続きなどで必要になります。
退職者に対しては退職後に会社側から書類を送ってもらうのが一般的なので過度に心配する必要はありませんが、退職代行利用時に代行業者に対して「辞めた後に必要書類を送るように伝えておいてください。」などと合わせて伝達しておくと確実です。
私物は事前に回収しておく
私物が残っていると会社側が誤って破棄してしまう可能性がありますので、辞める前に私物は持ち帰った方が無難です。
どうしても残ってしまう場合は郵送で送ってもらうよう伝えるか、退職代行を利用している場合は退職代行業者を通じて会社側に私物の郵送(着払いの方が良いでしょう)を伝えてください。
なお、退職代行業者には事前にどの様な私物があるのか?処分してもらうもの・返却して欲しいもの、等を口頭またはメールなどで伝えておき、その上で会社へ伝えてもらいましょう。
自分だけの文具、マグカップ、社内で使うブランケットやカーディガン類、スリッパ、リップクリームなど小物類、この辺りは会社で利用される私物で多いものといえます。
退職の引き止めは違法なので従う必要は無い/まとめ
退職の引き留めは基本的には違法になります。脳に則って退職の通知を会社側に行っているなら2週間を経て法的にあなたの退職は成立します。
もし、それでも引き留めがしつこくて退職処理に困っている際はひとりで悩むことなく退職代行に相談して対処してもらいましょう。