雇用契約書がないからと言って退職を即日にするのは難しい理由、および即日退職を成立させるための条件・手順について解説します。
雇用契約書がないからといって即日退職ができる理由にはならない
雇用契約書の用意は義務付けられていない
(労働契約の成立)
労働契約法第6条
第六条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
労働契約法第6条にもあるように使用者(会社側)と労働者が合意することによって雇用契約は成立します。つまり、雇用契約書の用意を義務付けている法律は無いので雇用契約書が無くとも違法には該当しません。
その為、雇用契約書がないからといって即日退職ができる理由にはなりません。
労働条件通知書で判断する
即日退職の条件は雇用形態によって異なりますが、雇用条件は労働条件通知書で定められます。その為、労働条件通知書で取り決めた契約内容を元に即日退職できる条件を検討します。
【補足】労働条件通知書は義務付けられている
(労働条件の明示)
労働基準法
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
雇用契約書と異なり労働条件通知書は用意が必須とされています。(労働基準法第15条、労働準法施行規則第5条)その為、雇用契約書がないときは労働条件通知書をもとに判断しましょう。
なお、労働条件通知書は事業主が労働者と雇用契約を結ぶ際に交付する書類になり、以下の項目が網羅されています。
- 労働契約の期間
- 就業場所
- 業務内容
- 始業/終業時刻
- 休憩時間
- 休日/休暇
- 賃金の計算方法/締日支払日
- 解雇を含む退職に関する事項
即日退職ができる条件
正社員が即日退職できる条件
正社員は労働契約が期間の定めがない雇用となりますが、この場合は辞め方が以下になります。
- 退職を伝えてから2週間後に正式に退職が成立(民法627条、その間は有給や欠勤で会社に行かない状態でも可)
- やむを得ない事由を会社に伝えて退職(病気や怪我、家族の問題などで働くことが出来ないなどの場合)
- 労働条件の相違による即日退職(労働基準法第15条)
- ハラスメント被害による退職(労働契約法5条、パワハラ防止対策義務化)
派遣社員・契約社員が即日退職できる条件
派遣や契約社員という期間の定めのある雇用(有期雇用契約)の場合、辞め方が以下になります。
- 勤務期間が1年以上経過していれば労働者側の希望で即日退職が可能(労働基準法137条)
- やむを得ない事由を会社に伝えて退職(病気や怪我、家族の問題などで働くことが出来ないなどの場合)
- 労働条件の相違による即日退職(労働基準法第15条)
- ハラスメント被害による退職(労働契約法5条、パワハラ防止対策義務化)
パート・バイトが即日退職できる条件
パートやバイトの場合は契約内容によります。具体的には契約内容に労働契約が期間の定めがあるか無いか?によります。
期間の定めが無い場合は正社員の辞め方を、期間の定めがある場合は派遣・契約社員の辞め方となりますので、労働条件通知書の内容を踏まえて判断しましょう。
雇用形態ごとの辞め方について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
即日退職する手順と注意点
【注意】雇用契約書を書いていないからと言ってもバックレだけは避ける
正社員の場合
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
民法第627条
民法第627条があるため、一部の条件を除き原則として即日退職は認められていません。そのため、バックレによる即日退職を行うと「違法行為」となり労働者に対して損害賠償請求や懲戒解雇を与えられる危険があります。
中でも懲戒解雇になると以下の問題が起こります。
- 本来貰えるはずだった退職金の一部または全部不支給
- 転職時にマイナスな印象を与えることになる
また、懲戒解雇になると転職活動時に相手先に伝えなければ経歴詐称になるので必ず伝える必要があります。つまり、懲戒解雇になるとその事実が必ず転職先にはバレますので転職活動においてご自身の印象が悪くなり不利益しかありません。
他にも嫌がらせや呼び戻しなどの可能性もあり、バックレは退職行為に対するリターンとリスクを加味した際にリスクが大きすぎて帳尻が合わない行為と言えます。そのため、法に基づかない即日退職行為だけは控えた方が良いです。辞めるなら法に則って確実に・安全に辞めましょう。
バイトやパートの場合
(不法行為による損害賠償)
民法709条
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
バックレを行うと不当行為(民法709条)に該当するので会社側から損害賠償請求をすることが可能になります。また、制服やスマホなど会社からの貸与物を返却しないと実費請求されたり、業務上横領罪を問われる可能性もあります。
1.有給を消化して辞める
第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
労働基準法第三十九条|e-Gov法令検索
有給は労働者の権利として認められており会社はその権利を拒否することはできません。よって、有給が残っている場合は必ず退職前に有給を消化してしまいましょう。
民法第627条で退職までに最短でも2週間が必要とされていますが、その期間は必ず勤務していなくてはいけないとは決められていません。
よって、退職の意思を伝えてからその後の2週間は有給で過ごして退職することで実質的な即日退職と同じ状況を作ることが出来ます。(有給の権利がない方は欠勤扱いにして代用してもらいましょう。)
また、有給が2週間以上残っている場合はそれだけ早くに実質的な退職状況を作り出すことが出来ます。
なお、有給は正社員だけの権利ではなく正社員、派遣、パート問わず条件を満たせば有給という権利が皆一様に発生しますので雇用契約内容に関わらず有給の条件を満たしていれば誰でも有給を申請・消化することが可能です。
退職時に有給が使えないトラブルへの対処法について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
退職の意思は必ず提示する
民法第627条より退職の際は退職の意思を会社側に明示することが定められています。口頭でも可能ではありますが、後になって言った・言わないというトラブルになることを避けるためにも退職の際は「退職届を提出」して辞めてしまいましょう。
退職届を直接渡す以外の形で辞める意思表示をする場合
- 配達記録付き内容証明郵便で退職届を郵送する
- 退職の旨を記載したメールを送る
- 録音しながら口頭で伝える
等の手段でも退職の意思(解約の申入れ)を伝えたことになります。そのため、退職届を直接手渡せない時は代わりの手段として用意してください。
上述した民法に従い、解約の申入れの日から2週間経過すると退職が成立します。
なお、会社側が退職拒否をしてきた場合「在職強要」となり違法行為に該当しますので会社の要請を受諾する必要はありません。詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
2.違法性を指摘して辞める
会社が違法な対応をしている場合、違法性を指摘して会社から即離れてしまいましょう。
労働条件に相違がある場合
(労働条件の明示)
労働基準法第15条
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
労働基準法第15条より、労働条件の相違は即時に契約解除(即日退職)が認められています。
入社時に会社からもらった労働条件通知書と異なる労働条件・仕事内容であればその旨を会社に伝えて即日退職してしまいましょう。
労働条件の相違と退職について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
ハラスメント被害を受けている場合
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働契約法 | e-Gov法令検索
ハラスメントは労働者の心と体の安全に影響がある行為であり、ハラスメントが起こる職場ということは労働契約法5条で定められた使用者である会社側が労働者の生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができる環境を用意できていない職場、となります。つまり、労働契約法5条に反している状況(違法な状況)ということです。
加えて、ハラスメントはハラスメント防止法(正式名称:改正労働施策総合推進法)違反にも該当します。
いずれの場合でも法律に反した状況であることに違いは無いので、会社側には「身の安全が保障されないため」と伝えてご自身の退職処理を進めましょう。
ハラスメント被害による退職について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
3.どうしてもの際は退職代行に相談する
前提として退職は労働者の権利なので辞めること自体は可能です。辞められないということはあり得ません。
ですが、雇用契約書が無いことで会社側と労働者側のそれぞれにとって雇用条件の定義が不明確な状況になってしまうと状況が難しくなります。
契約書が無いことで退職条件のやりとりも正確性が無く感情的になることがあり、お互いの言い分がかみ合わずに収集がつかなくなることがあります。
その為、退職を申し出ても素直に辞めさせてくれない時は退職の専門家である労働組合が運営する退職代行サービスに相談して代わりに退職処理を進めてもらいましょう。
代行してもらえれば確実に退職が成立します。
退職代行はお手持ちのスマホから電話やLINE(メールでも可)か相談が可能。希望があれば相談したその日から代行業者が動き出してくれます。
代行業者が動き出した瞬間からあなたは職場に行くことも連絡する必要も無くなるので、早ければ相談した即日から会社に行かなくても良い状態になれます。
具体的には、
- 確実に退職が成立する
- 法律に則って退職処理するので法的なトラブルがない
- 自分で対応する必要が無いので退職にまつわるストレスが無い
等があり、有給消化や未払いの交渉もしてくれますので退職代行費を支払う以上の利用メリットがあります。
そのため、あなたが
- 退職を切り出したけれども辞めさせてもらえない
- そもそも自分から退職を切り出すのが難しい
- でも、どうしても辞めたい
という状況であれば労働組合が運営する退職代行サービスに相談して辞めてしまいましょう。
まとめ
雇用契約書がないからと言って即日退職が出来る理由にはなりませんが、即日退職自体は条件を満たせば成立します。
どうしても居続けることが難しいと感じる職場であれば我慢して残り続ける必要はありません。
ご自身で退職処理ができるならご自身で進めていただき、それが難しい時は労働組合が運営する退職代行サービスに相談して退職処理を進めてください。