仕事を辞めさせてくれない時に確実に辞める方法を労働基準監督署(労基)やそれ以外の選択肢を含めて解説します。
仕事を辞めさせてくれない時に労基へ相談するとどうなる?
労働基準監査署(労基)は労働者から労働法に関する相談を受けた企業に対して労働基準法違反と認められた場合、職場環境を改善するよう指導や勧告を行います。
「退職させてくれない」ということは労働問題の一環になるので労働者が相談する最初の窓口と言えます。
すぐに労働基準監督署に行くことが出来ない場合は労働条件相談ほっとライン(TEL:0120-811-610)に電話してみても良いでしょう。ただし、電話では問題に対するアドバイスのみの対応となるので、会社への調査や是正勧告まで行ってもらうなら電話後に労働基準監督署に出向いて相談してください。
労基は指導までしか出来ないので確実ではない
労働基準監査署は労働者からの相談を受けた企業に対して改善するよう指導や勧告を行いますが、あくまで指導であり強制力のある命令は出来ません。
そのため、指導を受けたからと言って会社側が対応を改善しないこともあります。
つまり、必ずしも
- 職場環境が改善される
- 辞めさせてくれない状況が解決する
などが成立するとは限りませんし、必ずしも個人の問題を解決する保障をしてくれるわけではありません。
労働基準監督署への相談と出来ることの範疇について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
証拠集めが必要
加えて、労働者が被害を受けたという「証拠」を持って『労働基準法違反がある』と提示しない限りは指導などの対応をしてくれません。
そのため、会社に働き変えてもらうには事前の証拠集めが必要になります。
証拠を元に動く以上、
- 仮に実害を受けていたとしてもその証拠がない
- 実害ではないが精神的に苦しくて悩んでいる
- 悩みがあるが労働基準法に違反した問題ではない
といった類の問題には協力が難しくなります。
退職の原則と辞めさせてくれないことへの対策
仕事を辞めさせてくれないことはパワハラに該当する
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
民法第627条
民法第627条により退職の自由は労働者の権利として定められています。
そのため、会社から引き止められたとしても会社には強制力が無いので会社の要請に従う必要はなく、正規の手続きをとって退職を申し出たのであればそのまま退職処理を進めてしまって問題はありません。
また、仮に雇用先によっては特殊な雇用契約書を結んでいる・特殊な就業規則になっている、などの可能性もありますが就業規則よりも法律が優先されますので退職の意思を伝えれば必ず退職が成立します。
日本国憲法(昭和21年憲法)第22条第1項においては、「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択 の自由を有する。」 と規定されており、これは、職業選択の自由を保障しているものである。
日本国憲法第22条第1項|厚生労働省
加えて、日本国憲法第22条第1項より職業選択の自由が保障されていますので、特定の会社・職場に居続けないといけないということもありません。
さらに、ハラスメントはハラスメント防止法(正式名称:改正労働施策総合推進法)違反にも該当しますのでそもそも違法行為です。
以上のことから退職をさせてくれない妨害行為にあった場合は会社の要請に従うことなく退職処理を進めていただいて問題ありません。
以上が、退職に対する法的な原則となります。
ハラスメント被害による退職について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
退職届を受け取ってもらえない場合
民法第627条により辞める際は退職の意思を伝える必要があり、一般的には退職届という形で辞めることを会社に伝えることになります。
ですが、事情があり退職届を直接渡すことが出来ない(病気や怪我などで会社に行けない、など)、もしくは退職届を直接手渡したのに受け取ってもらえない場合は配達記録付き内容証明郵便で退職届を郵送してください。
会社側に退職届が届けられたことが証明できるため退職の意思を伝えた証拠になります。
また他にも
- 退職の旨を記載したメールを送る
- 録音しながら口頭で伝える
等の手段を用いて退職の意思(解約の申入れ)を伝えるのも有効です。
口頭で伝えることもできますが、仕事を素直に辞めさせてくれないような会社では「言った・言わない」とうやむやにされる可能性が高いです。そのため、退職届をはじめ、必ず何かしらの証拠を残して会社に伝えてください。
人手不足を理由にされた場合
人手不足に訴えて引き留められることがあります。
- 人手不足だから辞められると困る
- 人手不足だから後任が来るまで待ってほしい
- 人手不足なのに辞めるだなんて、みんなに迷惑だと思わないのか!?
- 後任が居ないから引き継げないので認められない
などと言われることがありますが、人手不足はあなたの責任ではありません。
会社の人事・採用の問題であり、問題を先延ばしにしてきた会社の責任です。
そのため、人手不足があったとしてもそれが労働者であるあなたを引き留めて良い理由にはならないので会社の要請に応じる必要はありません。
引き継ぎがいない時の辞め方については以下もご参考になさってください。
引き継ぎを理由にされた場合
- 引き継ぎが終わっていないので辞めさせない
- 引き継ぐ後任がいないので辞めさせない
などと言われた時に前提として理解しておきたいのが引き継ぎには法的な強制力がないという事実です。
引き継ぎは法律で定められた規則や義務ではなく、お世話になった会社に対する気持ちとして行う業務です。よって、引き継ぎを拒否することもできますし引き継ぎをしないことで罰則が発生することもありません。
円満退社や一般的なマナーとしては引き継ぎは行った方が良いですが、事情があってどうしても対応が難しい時や会社に対して感謝や恩が無いトラブルが起きている状態であれば引き継ぎ未対応でも退職は成立します。
退職時の引き継ぎについて詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
給与を支払わないと言われた場合
(賃金の支払)
労働基準法第24条
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
② 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
労働基準法第24条で賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない、と規定されてますので、働いた分はその全額が支給されなければなりません。
よって、退職時に「辞めると給料を支払わない」などと脅された場合は会社の要請に従う必要はなく、堂々と給与を会社側に請求しましょう。
損害賠償や違約金を請求される場合
(賠償予定の禁止)
労働基準法第16条
第十六条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
原則として損害賠償ありきの労働契約を結ぶことは法律で禁止されています。そのため、退職したこと対して損害賠償を義務付けることは出来ません。
よって、「辞めるから賠償請求だ」等と言われてもただの脅し文句に過ぎず、会社の要請は認められないので基本的に気にする必要はありません。
損害賠償は第三者が見ても辞めることで会社に多大な悪影響を残したときに検討されます。
例えば退職時に多くの同僚を一緒に引き抜いて辞めた、退職時に会社のインサイダー情報を後悔した、などが該当しますが、ただ退職するだけであれば会社に多大な悪影響を残したとは認められにくいので原則として退職時の損害賠償は気にする必要はありません。
懲戒処分にすると言われた場合
懲戒処分は会社の規律違反に対して課される制裁になります。
バックレや迷惑行為などをかけているならまだしも、法に則って正規の退職手続きを行っている従業員に課すことは出来ません。何か言われたとしてもただの脅しに過ぎず気にする必要はありません。
離職票を発行されない場合
「辞めるなら離職票を出さない」などと言われた場合、ハローワークに相談して離職票を出してもらいましょう。
まずはハローワークから会社側に離職票の発行を促してもらうことになりますが、それでも難しい場合はハローワークに申請して直接離職票を出してもらうことが出来ます。
(確認の請求)
雇用保険法第8条、第9条
第八条 被保険者又は被保険者であつた者は、いつでも、次条の規定による確認を請求することができる。
(確認)
第九条 厚生労働大臣は、第七条の規定による届出若しくは前条の規定による請求により、又は職権で、労働者が被保険者となつたこと又は被保険者でなくなつたことの確認を行うものとする。
2 前項の確認については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第三章(第十二条及び第十四条を除く。)の規定は、適用しない。
雇用保険法より被保険者でなくなったことの確認を行うと、ハローワークは離職票を交付してくれます。
そのため、「辞めるなら離職票を出さない」などとと言われても気にする必要はありません。
雇用保険被保険者証を交付されない場合
「雇用保険被保険者証を発行しない」などと言われた場合、ハローワークに申請することで即日発行してもらえます。
なお、発行にあたり、印鑑や本人確認書類など必要な持ち物があるのでホームページなどであらかじめ確認しておきましょう。
そのため、会社から脅されても気にする必要はありません。
退職金を支払わない場合
退職金の用意には法的な義務はありません。そのため、会社に退職金の規定があるかどうか?によって判断が異なります。
退職金の規定が無い場合、退職に対する脅しとは関係なしに支給されません。一方、退職金の規定がある場合は会社の義務になるので請求が出来ます。
退職金の規定があり退職金を請求する場合、退職金の規定の写しを用意し、会社から退職金を出さないと言われたときのメールや書面などのやりとりの履歴を集めた後に請求を進めてください。
仕事を辞めさせてくれないからとバックレ・飛ぶことは避ける
退職させてくれないからと感情的になりバックレや無断欠勤によって飛ぶことだけは避けた方が良いです。バックレは法的に認められておらず違法行為となり、労働者に対して損害賠償請求や懲戒解雇を与えられる危険があります。
中でも懲戒解雇になると以下の問題が起こります。
- 本来貰えるはずだった退職金の一部または全部不支給
- 転職時にマイナスな印象を与えることになる
また、懲戒解雇になると転職活動時に相手先に伝えなければ経歴詐称になるので必ず伝える必要があります。
つまり、懲戒解雇になるとその事実が必ず転職先にはバレますので転職活動においてご自身の印象が悪くなり不利益しかありません。
以上のことからバックレは避け、辞めるなら法に則って確実に・安全に辞めたほうがご自身にとって好ましいです。
確実に退職を成立させる方法
法に則って辞める
民法第627条があるように、退職の自由は法で定められた労働者の権利であり最短で退職の2週間前から辞める旨を申告しておけば退職が成立します。また、会社側には労働者の退職を拒否する権限はありません。
次が決まっているのに辞めさせてくれないなら強硬策しかない
雇用先によっては特殊な雇用契約書を結んでいる・特殊な就業規則になっている、などの可能性もありますが就業規則よりも法律が優先されますので退職の意思を伝えれば必ず退職が成立します。
特に次が決まてっている場合は先方との約束や都合もあるでしょうから退職できない状態のままでいるわけにもいきません。
そのため、
- 簡単に辞めさせてもらえない
- でも、どうしても辞めたい
というご状況であれば「退職届を受け取ってもらえない場合」でもお伝えしたように、法に則って会社側に伝達し「退職届を提出する」という具体的な退職の意思を示して辞めてしまいましょう。
退職前は有給も消化しよう
第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
労働基準法第三十九条|e-Gov法令検索
有給は労働者の権利として認められており会社はその権利を拒否することはできません。よって、有給が残っている場合は必ず退職前に有給を消化してしまいましょう。
民法第627条で退職までに最短でも2週間が必要とされていますが、その期間は必ず勤務していなくてはいけないとは決められていません。
よって、退職の意思を伝えてからその後の2週間は有給で過ごして退職することで実質的な即日退職と同じ状況を作ることが出来ますし、有給が2週間以上残っている場合はそれだけ早くに実質的な退職状況を作り出すことが出来ます。
なお、有給は正社員だけの権利ではなく正社員、派遣、パート問わず条件を満たせば有給という権利が皆一様に発生しますので雇用契約内容に関わらず有給の条件を満たしていれば誰でも有給を申請・消化することが可能です。
退職時に有給が使えないトラブルへの対処法について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
違法性を指摘して辞める
会社が違法な対応をしている場合、違法性を指摘して会社から即離れてしまいましょう。
労働条件に相違がある場合
(労働条件の明示)
労働基準法第15条
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
労働基準法第15条より、労働条件の相違は即時に契約解除(即日退職)が認められています。
入社時に会社からもらった労働条件通知書と異なる労働条件・仕事内容であればその旨を会社に伝えて即日退職してしまいましょう。
労働条件の相違について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
ハラスメント被害を受けている場合
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働契約法 | e-Gov法令検索
ハラスメントは労働者の心と体の安全に影響がある行為であり、ハラスメントが起こる職場ということは労働契約法5条で定められた使用者である会社側が労働者の生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができる環境を用意できていない職場、となります。
会社側には「身の安全が保障されないため」と伝えてご自身の退職処理を進めましょう。
どうしてもの際は退職代行に相談する
- 退職を切り出しても辞めさせてくれない
- 労働基準監督署に相談しても動いてくれ無さそう
- でも、どうしても辞めたい
という方であれば労働組合が運営する退職代行サービスに相談して辞めてしまいましょう。
確実に退職が成立します。
退職代行はお手持ちのスマホから電話やLINE(メールでも可)か相談が可能。希望があれば相談したその日から代行業者が動き出してくれます。
代行業者が動き出した瞬間からあなたは職場に行くことも連絡する必要も無くなるので、早ければ相談した即日から会社に行かなくても良い状態になれます。
具体的には、
- 確実に退職が成立する
- 法律に則って退職処理するので法的なトラブルがない
- 自分で対応する必要が無いので退職にまつわるストレスが無い
等があり、有給消化や未払いの交渉もしてくれますので退職代行費を支払う以上の利用メリットがあります。
そのため、あなたが
- 自分から退職を切り出すのが難しい
- 切り出したとしても辞めさせてもらえない
- でも、どうしても辞めたい
という状況であれば労働組合が運営する退職代行サービスに相談して辞めてしまいましょう。
まとめ
退職の自由は労働者の権利です。
仮に労働基準監督署が動いてくれなくとも正規の手続きを行って退職処理を進めれば法に基づき退職が成立します。
よって、今の職場を離れたい時は労基への相談を検討するとともに法に則って退職処理を進めてしまいましょう。
そして、それがどうしても難しいとなったときは退職代行に相談して退職処理を進めてしまいましょう。