退職する旨を社長に直接伝える際の伝え方や注意点について解説します。
退職を直接社長に伝えることは問題無い
退職は直属の上司に伝えることが一般的ですが、小規模な事業所であれば直属の上司が誰になるか?と言うと「社長」ということもあります。そのため、退職を社長に直接伝えるケースは不自然なことではありません。
伝える際の注意点
退職を伝える相手が社長というぐらい小規模な事業所の場合、大規模な会社とはことなり相手との距離が近いために気持ちの持ちようもより密接になってきます。
つまり、感情的になりやすい側面があります。
そのため、退職時は一般的なテンプレートな伝え方だけでなく、通常よりも相手の気持ちを鑑みた伝え方を心がけた方が良いです。
社長に辞めることを伝える際の言い方・切り出し方
退職を伝えるタイミングは朝
退職連絡は業務内容ではなくあくまで自己都合による伝達となります。そのため、通常業務へ支障をきたさないためにも業務時間外に伝える方がマナーとしては好ましいです。
時間帯の目安として始業15~30分前を目途に相談を切り出しましょう。
また、退職の相談を切り出す際は社長と一対一で話が出来る場所、例えば会議室などを選んで呼びかけてください。
【伝え方の例】
○○社長、お疲れ様です。
○○(自分の名前)です。ただいまお時間よろしいでしょうか?
少しご相談したいことがあるため10~15分程度お時間をいただけないでしょうか。
恐れ入りますが何卒宜しくお願い致します。
退職の1,2ヶ月に伝える
会社の就業規則との兼ね合いもありますが、辞める1,2ヶ月前に相談を切り出すのが一般的なタイミングです。
あなたが辞めることにより、引き継ぎや新規採用を行う必要が出てくるので急に辞めるのではなく、1,2ヶ月前という一定の期間を用意して退職を伝えてください。時間的な猶予があれば会社も業務に支障をきたさずに引き継ぎがしやすくなります。
退職の決心がついていることを前提に伝える
【伝え方の例】
お時間とっていただきありがとうございます。
急なご連絡となり申し訳ございませんが、一身上の都合により退職させていただければと思ってます。
大変身勝手ではありますが、〇月〇日をもって退職させていただけませんでしょうか?
急なお伝えとなり大変申し訳ございませんが、何卒宜しくお願い申し上げます。
「辞めようか悩んでいます」といった伝え方だと引き留められてしまうので伝え方例のように辞めること決意していることを前提に伝えてください。
まずは退職願・退職相談から切り出す
辞める際は退職届と退職願を用意することが一般的ですが、退職届と退職願は役割・目的が異なります。
退職願は退職を願い出るための書類であり、却下される可能性もあります。退職届は会社に退職の可否を問わず、自分の退職を通告するための書類であり、一度提出したら取り下げることが出来きません。
最初に退職届を出してしまうことは相手にものを言わせず辞めると伝達することと同じなので印象が悪くなります。
「まずは退職の相談を行い、相談した結果退職を認めてもらったので正式に退職を申し込んだ」という流れがマナーとなるので、最初は退職願の提出、もしくは退職の相談から切り出してください。
【補足】
退職願いは法的には用意する義務はありません。そのため、退職届の用意の代わりに退職相談という形で切り出していただいても問題はありません。
なお、退職の理由が精神的なもので理解されにくい時はどうすれば?という状況でしたら以下の記事もご参考になさってください。
退職時の注意点
退職相談をした後、正式に退職が決まった際の動き方・注意点を解説します。
退職届を用意して社長に直接渡す
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
民法第627条
民法第627条より退職時は解約の申入れが必要になります。
口頭で伝えることもできますが、中には「言った・言わない」とうやむやにされる可能性もあるため、退職の意思を伝えたことを証拠として残した方が確実です。そのため、退職届という形にして社長に直接渡しましょう。
受け取ってもらえない場合
- 辞めると伝えても認めてくれない
- 退職届を受け取ってもらえない
というトラブルが起きた場合は
- 退職届を内容証明郵便で会社に送る
- メールで退職を伝えて履歴を保存しておく
- 録音しながら電話で伝える
などで伝えてください。
それぞれ退職の意思を伝えたことになり、且つ証拠としても証明できます。
退職理由に会社への不平不満は避ける
辞める際に会社への不平・不満を挙げると心証が悪くなるので避けた方が良いです。特に社長に伝える際は会社の代表に伝えるということですので、一般的な上司に伝える以上に影響があります。
心証を損ね、万が一にも感情的なやりとりになってしまうと円満退社が出来なくなるか、退職交渉自体が進まなくなる可能性もあります。
また、「不満を解消するから会社に残って欲しい」と引き留める口実を相手に与えてしまい、結果として辞めにくくなることもあります。
そのため、退職理由では会社への不平不満は避けて伝えましょう。
理由が社長自身の場合は注意
退職の原因が社長にある場合は尚更に注意してください。直接伝えてしまうとほぼ確実に心証が悪くなり円満退職が遠ざかります。
嘘も方便の場合もある
会社への不満や社長への不満があったとしても退職理由は個人的な理由(「新しいチャレンジをしたい!」「家族の問題」など)に徹して伝えましょう。個人的な理由であれば社長側も「仕方がない」となりやすく、且つ個人的な理由であれば会社側での対応が難しいので引き止めも難しくなります。
なお、個人的な理由が無い場合は嘘であっても構いません。辞めると決めた際は不要なトラブルを避けて辞めることに徹して方が良いです。
喧嘩してしまった場合
どうしても我慢できずに素直に伝えてしまい、社長と喧嘩やトラブルになってしまったときは退職代行業者を間に挟んで対応してもらうのが良いでしょう。第三者が入ることで個人間の感情を抜きに退職処理を進めてもらえます。
喧嘩して退職する時の辞め方について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
引き留めには応じない
退職時は引き留めが入りやすいものですが、本気で退職を心に決めているなら決して引き留めには応じないこと。
仮に引き留め条件として待遇の改善が約束されていたとしても実行されるかどうかは保障されませんし、無かったことにされることもあります。
また、仮に残ったとしての周囲からは「辞めたがっている人」として見られるので勤務していても心が休まることがありません。
「退職する」と決めたら引き留めに応じることなく、そのまま辞めるのがお互いにとって良いです。
強制労働は違法行為
(強制労働の禁止)
労働基準法 第5条
第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
労働基準法第5条より、使用者(会社側)は労働者の意思に反した労働を強制してはいけないと定められています。
そのため、退職を伝えたにもかかわらず認めないことは労働基準法第5条違反に該当するので無効。会社側には強制的に働かせる権利はありません。
辞めさせてくれない強制労働問題について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
損害賠償請求は原則、気にする必要は無い
(賠償予定の禁止)
労働基準法第16条
第十六条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
原則として損害賠償ありきの労働契約を結ぶことは法律で禁止されています。そのため、退職したことに対して損害賠償を義務付けることは出来ません。
損害賠償は第三者が見ても辞めることで会社に多大な悪影響を残したときに検討されます。例えば退職時に多くの同僚を一緒に引き抜いて辞めた、退職時に会社のインサイダー情報を公開した、などが該当しますが、ただ退職するだけであれば会社に多大な悪影響を残したとは認められにくいので原則として退職時の損害賠償は気にする必要はありません。
人手不足は理由にならない
「人手不足」や「引き継ぎ」に訴えて引き留められることがあります。
- 人手不足だから辞められると困る
- 人手不足だから後任が来るまで待ってほしい
- 人手不足なのに辞めるだなんて、みんなに迷惑だと思わないのか!?
- 後任が居ないから引き継げないので認められない
などと言われることがありますが、人手不足はあなたの責任ではありません。
会社の人事・採用の問題であり、問題を先延ばしにしてきた会社の責任です。
そのため、人手不足があったとしてもそれが労働者であるあなたを引き留めて良い理由にはならないので会社の要請に応じる必要はありません。
引き継ぎがいない時の辞め方については以下もご参考になさってください。
バックレによる即日退職は違法なので控える
民法第627条があるため、一部の条件を除き原則として即日退職は認められていません。そのため、バックレによる即日退職を行うと「違法行為」となり労働者に対して損害賠償請求や懲戒解雇を与えられる危険があります。
中でも懲戒解雇になると以下の問題が起こります。
- 本来貰えるはずだった退職金の一部または全部不支給
- 転職時にマイナスな印象を与えることになる
また、懲戒解雇になると転職活動時に相手先に伝えなければ経歴詐称になるので必ず伝える必要があります。つまり、懲戒解雇になるとその事実が必ず転職先にはバレますので転職活動においてご自身の印象が悪くなり不利益しかありません。
以上のことからバックレは退職行為に対するリターンとリスクを加味した際にリスクが大きすぎて帳尻が合わない行為と言えます。そのため、法に基づかない即日退職行為だけは控えた方が良いです。辞めるなら法に則って確実に・安全に辞めましょう。
有給を消化して辞める
第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
労働基準法第三十九条|e-Gov法令検索
有給は労働者の権利として認められており会社はその権利を拒否することはできません。よって、有給が残っている場合は必ず退職前に有給を消化してしまいましょう。
民法第627条で退職までに最短でも2週間が必要とされていますが、その期間は必ず勤務していなくてはいけないとは決められていません。
よって、退職の意思を伝えてからその後の2週間は有給で過ごして退職することで実質的な即日退職と同じ状況を作ることが出来ますし、有給が2週間以上残っている場合はそれだけ早くに実質的な退職状況を作り出すことが出来ます。
なお、有給は正社員だけの権利ではなく正社員、派遣、パート問わず条件を満たせば有給という権利が皆一様に発生しますので雇用契約内容に関わらず有給の条件を満たしていれば誰でも有給を申請・消化することが可能です。
退職時に有給が使えないトラブルへの対処法について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
引き継ぎをする
会社と決めた退職日までの中で有給消化などの期間を調整し、退職日までに間に合うよう引き継ぎを行います。もし間に合わない場合は後任の方にために引き継ぎ資料(引き継ぎマニュアル)を用意しておきましょう。
なお、引き継ぎ資料には以下を記載してください。
- 業務の社内での位置付け
- 業務の流れ(フローチャートなど)
- 業務に関わる社内外の関係者
- 過去に起こったトラブルやその対処法のノウハウ
- 顧客情報など必要なデータ
見ていただくとわかるように、業務や作業の繋がり・業務・作業に関わる関係者をそれぞれ明確化しておく資料になります。また、引き継ぎ資料は自分だけしかわからない言葉でまとめることなく、誰が見ても理解できる言葉でまとめてください。
【補足】引き継ぎは義務ではないし、拒否もできる
引き継ぎは法律で定められた規則や義務ではなく、お世話になった会社に対する気持ちとして行う業務です。
よって、引き継ぎを拒否することもできますし引き継ぎをしないことで罰則が発生することもありません。
円満退社や一般的なマナーとしては引き継ぎは行った方が良いですが、事情があってどうしても対応が難しい時は引き継ぎ未対応でも退職は成立します。
退職時の引き継ぎについて詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
退職時に会社から必要な書類を受け取る
- 雇用保険被保険者証
- 年金手帳
- 源泉徴収票
- 離職票
- 扶養控除等(異動)申告書
- 健康保険被扶養者(異動)届
- 給与振込先届
- 健康診断書
など、退職時に必要な書類を会社から郵送してもらうように伝えましょう。
退職後の失業手当の申請、次の会社に入社する際の手続きなどで必要になります。
基本的には退職後にご自宅に郵送されてきますが、しばらく待っても届かない場合は会社に確認の連絡を入れてください。
備品は返却する
スマホ、PC、制服、社章など会社から借りているものは必ず返却しましょう。
まとめて直接返却しても良いですし、それが難しければまとめたものを郵送で会社に送っても問題ありません。
退職の伝え方
1.就業規則と法に基づいて辞める
原則としては円滑に辞めるためにも就業規則で退職を伝えるタイミングを確認し、退職届の提出、引き継ぎ、有給消化をすすめて退職処理を完了させてください。
なお、仮に「就業規則よりももっと早く辞めたい」ということであれば民法第627条に基づき退職の2週間前から解約の申入れ(退職の申し入れ)しておけば退職は成立します。
例えば「退職は辞める三ヶ月前・半年前に伝えること」など伝えるのが早すぎるタイミングを就業規則で定めていたとしても就業規則よりも法律が優先されますので最短で2週間前に伝えれば退職は成立します。
2.双方の合意で辞める場合
原則として就業規則と法に基づき辞めることが前提となりますが、急遽やむを得ない事情が発生した場合は辞め方が異なります。
(やむを得ない事由による雇用の解除)
民法第628条
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
民法第628条より、やむを得ない事由が発生した場合は会社と労働者、双方の合意に基づき即日退職が成立します。
【やむを得ない事由の例】
- 契約外の仕事をさせられる
- 使用者が労働者の生命・身体に危険を及ぼす労働を命じた
- 派遣先の上司からパワハラやモラハラを受けている
- 賃金不払いなどの重要な債務不履行が発生した
- 労働者自身が負傷・疾病・心身の障害などにより就業不能に陥った
- 親や家族の介護が必要になった
- 家族の転勤などにより急な引っ越しが決まった
- 業務内容が法令に違反している
- 両親や子供の病気、または介護など
など。
事情があり、どうしても勤務が出来ない・すぐに勤務が出来なくなる場合は会社と協議の上、双方の合意に基づいて退職をしましょう。
3.労働条件に相違がある場合
(労働条件の明示)
e-gov法令検索(労働基準法)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
労働基準法第十五条より、労働条件の相違は即時に契約解除(即日退職)が認められています。
入社時に会社からもらった雇用契約書と異なる労働条件・仕事内容で勤務させられえている場合、その旨を会社に伝えて労働環境や業務内容を是正してもらいましょう。ただし、聞き入れてもらえない場合は即日退職という選択肢を用意することが出来ます。
労働条件の相違と退職について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
4.どうしても際は退職代行に相談する
- 自分から切り出すのは難しい
- 相談しても辞めさせてくれない
- でも、どうしても辞めたい
という時は労働組合が運営する退職代行サービスに依頼して辞めてしまいましょう。
確実に退職が成立します。
退職代行はお手持ちのスマホからLINEで申込み相談が可能。また、希望すれば即日から代行業者が動き出してくれます。
代行業者が動き出した瞬間からあなたは職場に行くことも連絡する必要も無くなるので、早ければ相談した即日から会社に行かなくても良い状態になれます。
具体的には、
- 確実に退職が成立する
- 法律に則って退職処理するのでトラブルがない
- 自分で対応する必要が無いので退職にまつわるストレスが無い
などがあります。
そのため、もしあなたが
- 辞めさせてもらえない
- 辞めたいけど自分では言い出しにくい
- でも、どうしても辞めたい
等の場合は迷わず労働組合が運営する退職代行サービスを利用することをおすすめします。
まとめ
社長に直接退職を伝えるのは普通の上司相手以上に心苦しさを感じることも多いかと思います。
そのため、伝える際はできるだけ感情的にならず、且つ丁寧に事情を伝えて退職を理解してもらってください。
ご自身で退職処理を進められるのがベストですが、もしそれが難しい時は退職代行会社という第三者機関に間に入ってもらって円滑な退職処理を進めてください。