客先常駐(SES)を半年で辞める際の注意点とトラブルを避けた退職の仕方について解説します。
SESを半年で辞めることは可能
退職は労働者の権利
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
民法第627条
民法第627条により退職の自由は労働者の権利として定められています。
仮に会社から引き止められたとしても会社には強制力はないので、退職が出来ないということはありません。
雇用先によっては特殊な雇用契約書を結んでいる・特殊な就業規則になっている、などの可能性もありますが就業規則よりも法律が優先されますので退職の意思を伝えれば必ず退職が成立します。
また、退職について就業規則にどの様な記載があろうとも民法第627条より最短2週間で退職は成立します。
退職届を出して辞める
- どうしても今の職場に居続けるのが難しい
というご状況であれば民法第627条に則って退職の意思を示して辞めましょう。なお、退職の意思は「退職届」を提出することで成立します。
客先との契約途中でも可能
客先との契約途中で辞めにくい、という状況もあるかと思います。ですが、客先との契約は会社側の問題であり、退職は労働者個人の問題となります。
客先との問題は会社側が責任をもって対応すれば良いだけなので辞める労働者に対して責任を負わすことはできません。
その為、客先との契約途中でも可能になります。
プロジェクト途中の退職について詳しくは以下の記事も併せてご参考になさってください。
強制労働(在職強要)は違法
退職を申し出たのにもかかわらず「辞めさせることはできない」と言われた際は脅し文句になりパワハラに該当するのでパワハラ防止法違反になります。
第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
労働基準法 第5条
加えて、労働基準法第5条より使用者(会社側)は労働者の意思に反した労働を強制してはいけないと定められています。そのため、退職を申し出たにも拘わらず、辞めさせることはできないと言われることは労働者の意思に反した不当な拘束に該当するため違法行為となります。よって、労働基準法第5条違反に該当します。
以上のことから強制的に働かせようとする会社側の要請に従う必要はありません。
辞めさせてくれない強制労働問題やハラスメント問題について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
客先常駐(SES)を辞めたい人は多い
職場環境や人間関係は大事
「令和3年雇用動向調査結果の概要」「転職入職者が前職を辞めた理由」によると、前職を辞めた理由として
- 職場の人間関係が好ましくなかった
- 仕事の内容に興味を持てなかった
- 給与等収入が少なかった
- 労働時間、休日などの労働条件が悪かった
などが挙げられており、人間関係トラブル・仕事の内容・給与などが強いストレスを感じさせて退職に繋がることがわかっています。
客先常駐では
- プロジェクトが忙しくて残業や休日出勤が多い
- 給与が低い
- お客さんに気を使うし客先で肩身が狭い
- 客先に高圧的な方がいるのでやりづらい
等の悩みが多いため、退職を考えやすい環境と言えます。
職場環境が影響して気持ちが持たなくなりそうなときは以下の記事もご参考になさってください。
自分の身の安全を第一に考えた方が良い
辞めたい理由は個々によって異なりますが、いまの職場に居続けるのが難しいという状態にも拘わらず我慢して働き続けることだけは避けてください。
辞めたいのに辞められない状況は強いストレスがかかり、状況が続くとうつ病や適応障害など精神疾患にかかるリスクがあります。
会社は責任をとってくれない
うつや適応障害などの精神疾患にかかると仕事だけではなくその後のご自身の人生やプライベートに影響します。
病気の回復には時間がかかり、勤務が出来なくなるだけでなく、就職活動や社会復帰にも影響します。ですが、ご自身のプライベートを会社が守ってくれることはありません。
そのため、うつや適応障害になる可能性があるなら我慢していまの職場に留まることなく、退職を最優先に動いてください。社会的なダメージを負うリスクを背負ってまで今の会社で我慢する必要はありません。
一番大事なことはご自身の身の安全です。
うつになる前に退職した方が良い理由について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
SES案件を途中で抜けたい場合
結論、SES案件を途中で抜けても問題はありません。バックレ等は厳禁ですが、どうしても続けられない状況になれば我慢して居続けるだけでご自身の心身を壊してしまう原因になります。
自身の健康・身の安全よりも大事なものはありませんので、いざという時は抜け出しても良いと知っておいてください。
担当に相談する
担当に相談して抜けるタイミングや抜け方を調整しましょう。
中には相談しても応じてくれない担当もいる可能性はありますが、その場合は後述の「客先常駐だから退職しにくいと感じた時の対策」を参考に退職を検討した方が良いです。
会社を辞める際の注意点
社内規定に従って退職手続きを行う
基本的には社内規定を元に退職の申し出をしてください。辞める2ヶ月前に伝える、3ヶ月前に伝える、など会社特有の規定があるかと思いますので、基本的には社内規定に従って退職手続きを進めましょう。
なお、退職時は「退職願」ではなく『退職届』を会社側に渡してください。
退職願と退職届の違い
退職願は辞表の意思表明をあらわすもので、雇用者側の受理・承諾を求めます。雇用者との合意が必要となるのでこれを雇用者に受理・承諾してもらわなければ退職の効果は生じません。
退職届は労働契約の一方的な解約の意思、辞職の意思表示を表すもので、出してしまうと取り下げはできません。退職届の場合、雇用者に伝えたら雇用者の受理・承諾がなくとも、2週間の経過により、退職の効果が生じます。
退職願はそれ自身に法的な効力が生じないので退職願いが受理されないこと自体には違法性がありません。よって、退職を成立させたいときは「退職届」を会社側に提出してください。退職届であれば退職の意思を示したことになるので退職が成立します。
法に則って2週間で辞めることも可能
- 社内規定で3ヶ月前に退職を伝える必要があるが、そんなに長く我慢できない
- もっと早くに今の職場を辞めたい
というご状況であれば「退職は労働者の権利」でもお伝えしたように民法第627条を元に退職届を提出して2週間という短い期間で辞めることも可能です。
退職届を受け取ってもらえない場合
事情があり退職届を直接渡すことが出来ない、もしくは相談したのに受け取ってもらえない場合は配達記録付き内容証明郵便で退職届を郵送してください。
会社側に退職届が届けられたことが証明できるため退職の意思を伝えた証拠になります。
また他にも
- 退職の旨を記載したメールを送る
- 録音しながら口頭で伝える
等の手段を用いて退職の意思(解約の申入れ)を伝えるのも有効です。
口頭で伝えることもできますが、中には「言った・言わない」とうやむやにされる可能性もあるため、退職届をはじめとして何かしらの証拠を残して伝えた方が確実です。
なお、会社側が退職拒否をしてきた場合「在職強要」となり違法行為に該当しますので会社の要請を受諾する必要はありません。詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
バックレ・無断欠勤による退職は違法なので控える
バックレや無断欠勤による退職は認められていません。そのため、今の勤務先が嫌だからといってもバックレや無断欠勤による即日退職を行うと「違法行為」となり労働者に対して損害賠償請求や懲戒解雇を与えられる危険があります。
中でも懲戒解雇になると以下の問題が起こります。
- 本来貰えるはずだった退職金の一部または全部不支給
- 転職時にマイナスな印象を与えることになる
また、懲戒解雇になると転職活動時に相手先に伝えなければ経歴詐称になるので必ず伝える必要があります。つまり、懲戒解雇になるとその事実が必ず転職先にはバレますので転職活動においてご自身の印象が悪くなり不利益しかありません。
他にも嫌がらせや呼び戻しなどの可能性もありますので、今の勤務先が嫌だからといってバックレることはせず、辞めるなら法に則って確実に・安全に辞めましょう。
辞める意思を崩さない
「辞めようか悩んでいます」といった伝え方だと引き留められてしまい、退職がしにくくなります。その為、退職の相談をする際は退職を決意していることを前提に伝えてください。
引き留めには応じない
退職時は引き留めが入りやすいものですが、本気で退職を心に決めているなら決して引き留めには応じないこと。
仮に引き留め条件として待遇の改善が約束されていたとしても実行されるかどうかは保障されませんし、無かったことにされることもあります。また、仮に残ったとしての周囲からは「辞めたがっている人」として見られるので勤務していても心が休まることがありません。
「退職する」と決めたら引き留めに応じることなく、そのまま辞めるのがお互いにとって良いです。
損害賠償は原則として気にする必要はない
(賠償予定の禁止)
労働基準法第16条
第十六条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
原則として損害賠償ありきの労働契約を結ぶことは法律で禁止されています。そのため、退職したことに対して損害賠償を義務付けることは出来ません。
損害賠償は第三者が見ても辞めることで会社に多大な悪影響を残したときに検討されます。例えば退職時に多くの同僚を一緒に引き抜いて辞めた、退職時に会社のインサイダー情報を公開した、などが該当しますが、ただ退職するだけであれば会社に多大な悪影響を残したとは認められにくいので原則として退職時の損害賠償は気にする必要はありません。
引き継ぎは必須ではない
会社と決めた退職日までに間に合うよう引き継ぎを行います。もし間に合わない場合は後任の方にために引き継ぎ資料(引き継ぎマニュアル)を用意しておきましょう。
なお、引き継ぎ資料には以下を記載してください。
- 業務の社内での位置付け
- 業務の流れ(フローチャートなど)
- 業務に関わる社内外の関係者
- 過去に起こったトラブルやその対処法のノウハウ
- 顧客情報など必要なデータ
見ていただくとわかるように、業務や作業の繋がり・業務・作業に関わる関係者をそれぞれ明確化しておく資料になります。また、引き継ぎ資料は自分だけしかわからない言葉でまとめることなく、誰が見ても理解できる言葉でまとめてください。
【補足】引き継ぎは義務ではないし、拒否もできる
引き継ぎは法律で定められた規則や義務ではなく、お世話になった会社に対する気持ちとして行う業務です。
よって、引き継ぎを拒否することもできますし引き継ぎをしないことで罰則が発生することもありません。
円満退社や一般的なマナーとしては引き継ぎは行った方が良いですが、事情があってどうしても対応が難しい時は引き継ぎ未対応でも退職は成立します。
退職時の引き継ぎについて詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
有給を消化する
第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
労働基準法第三十九条|e-Gov法令検索
有給は労働者の権利として認められており会社はその権利を拒否することはできません。また、有給が残ったまま退職すると有給の権利は消滅してしまいます。
その為、退職する際に有給の権利が残っている場合は必ず有給を消化して退職をしましょう。
【補足】時季変更権は退職時は無効になる
有給に対して会社側にも「時季変更権(会社が労働者の有給取得日の時期をずらせる権利)」がありますが、時季変更権は退職予定日を超えた行使はできません。
つまり、有給消化後に退職してしまうということは、他の時季に有給休暇を与えることができないということになるため、時季変更権を行使することができず有給申請者の請求が通ります。
要するに、退職時に有給消化を使う場合は時季変更権が成立しないということです。つまり、有給を利用すれば自分が辞めたいというタイミングで意図的に辞めることができます。
退職と有給の扱いについて詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
私物の回収
私物が残っていると会社側が誤って破棄してしまう可能性がありますので、辞める前に私物は持ち帰っておきましょう。
どうしても残ってしまう場合は着払いの郵送で送ってもらうよう会社側に伝えてください。
備品の返却
スマホ、PC、制服、社章など会社から借りているものは必ず返却しましょう。
まとめて直接返却しても良いですし、それが難しければまとめたものを郵送で会社に送っても問題ありません。
退職時に会社から必要な書類を受け取る
- 雇用保険被保険者証
- 年金手帳
- 源泉徴収票
- 離職票
- 扶養控除等(異動)申告書
- 健康保険被扶養者(異動)届
- 給与振込先届
- 健康診断書
など、退職時に必要な書類を会社から郵送してもらうように伝えましょう。
退職後の失業手当の申請、次の会社に入社する際の手続きなどで必要になります。
基本的には退職後にご自宅に郵送されてきますが、しばらく待っても届かない場合は会社に確認の連絡を入れてください。
客先常駐だから退職しにくいと感じた時の対策
1.やむを得ない理由を元に辞める
(やむを得ない事由による雇用の解除)
民法第628条
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
民法第628条より、やむを得ない事由が発生した場合は会社と労働者、双方の合意に基づき即日退職が成立します。
なお、やむを得ない事由としては怪我・病気、家族の介護、出産などによりどうしても勤務が出来ない場合が該当します。
診断書を用意する
例えば精神的な問題で会社に居るのが難しくなった場合、その原因が職場にあることやどのように退職を伝えるか?は難しいものです。
この場合、心療内科で診断書を用意してもらうことで客観的に勤務が出来ないことを証明できるようになり、民法第628条によるやむを得ない事由に該当することで退職を認めてもらいやすくなります。
なお、診断書は心療内科で用意してもらえますが自分から要請する必要がありますので、心療内科で診てもらう際は先生に診断書を書いてもらうよう直接伝えてください。
2.違法性を指摘して辞める
会社が違法な対応をしている場合、違法性を指摘して会社から即離れてしまいましょう。
労働条件に相違がある場合
(労働条件の明示)
労働基準法第15条
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
労働基準法第15条より、労働条件の相違は即時に契約解除(即日退職)が認められています。
入社時に会社からもらった労働条件通知書と異なる労働条件・仕事内容であればその旨を会社に伝えて即日退職してしまいましょう。
労働条件の相違と退職について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
ハラスメント被害を受けている場合
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働契約法 | e-Gov法令検索
ハラスメントは労働者の心と体の安全に影響がある行為であり、ハラスメントが起こる職場ということは労働契約法5条で定められた使用者である会社側が労働者の生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができる環境を用意できていない職場、となります。つまり、労働契約法5条に反している状況(違法な状況)ということです。
加えて、ハラスメントはハラスメント防止法(正式名称:改正労働施策総合推進法)違反にも該当します。
いずれの場合でも法律に反した状況であることに違いは無いので、会社側には「身の安全が保障されないため」と伝えてご自身の退職処理を進めましょう。
ハラスメント被害による退職について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
3.どうしても際は退職代行に相談する
- 退職を自分で切り出すのは難しい
- 上司が怖いので伝えられない
- 退職相談をしたのに辞めさせてくれない
- でも、どうしても辞めたい
という方であれば労働組合が運営する退職代行サービスに相談して辞めてしまいましょう。
確実に退職が成立します。
退職代行はお手持ちのスマホから電話やLINE(メールでも可)か相談が可能。希望があれば相談したその日から代行業者が動き出してくれます。
代行業者が動き出した瞬間からあなたは職場に行くことも連絡する必要も無くなるので、早ければ相談した即日から会社に行かなくても良い状態になれます。
具体的には、
- 確実に退職が成立する
- 法律に則って退職処理するので法的なトラブルがない
- 自分で対応する必要が無いので退職にまつわるストレスが無い
等があります。
そのため、あなたが
- 退職を自分で切り出すのは難しい
- 退職相談をしたのに辞めさせてくれない
- でも、どうしても辞めたい
という状況であれば労働組合が運営する退職代行サービスに相談して辞めてしまいましょう。
まとめ
お客様との契約期間途中であっても辞めることは可能です。
「どうしても今の職場環境に我慢することができない」となった場合は、無理に居続けることなくご自身の心身がボロボロになる前に退職処理を進めてみてくださいね。