「簡単に辞められない」
「引き止められたらどうしよう」
退職の際に引き止めに遭っても問題無く対処できる方法、および相手に何を言われても確実に退職できる条件について解説します。
退職の引き止めは論破しないが良い理由
退職に対する引き止めを下手に論破すると、相手が感情的になって退職処理が円滑に進まなくなる可能性があります。
その為、論破しようと固執しない方が「退職する」という目的に対して効果的なことも少なくありません。
1.論破という不確実なことはしない
お互いの意見交換の上で双方にとっての着地点を議論するのが大人の社会です。そのため、「論破」は大人の社会ではほぼ意味がありませんし。
むしろ論破という大人社会のルールに則っていない行為を行うと、相手の神経を逆なでしてしまい感情的な対応になってしまいますので逆効果。辞めにくくなる可能性が上がるだけです。
論破しようとするから墓穴を掘る
もし相手の弁が経つ場合、論破しようと「それっぽいこと」を言うと逆に論破されます。
論破は一見すると強力な話術に思えますが、そもそも大人の社会で求められる話術ではなく、その上失敗すると逆に自分に逃げ道が無くなるだけでありリスクが大きいだけです。
2.論破しても感情論で対応されるのがオチ
相手が感情的な人の場合、仮に論破できたとしても逆上して感情論で嫌がらせを受けるだけです。
そもそも論破自体が相手に不快な思いをさせやすい側面があります。
論破で納得することを前提にするなら論じる相手が理性的且つ、賢い場合に限定されます。理性的、且つ賢さがあり感情論に流されない、そんな相手でなければ論破は成立しません。
むしろそんな相手であれば素晴らしい人過ぎますのでその職場を退職しようとも思わないでしょう。苦笑
退職の意思を示して機械的に受け流すだけの方が良い
退職で必要なことは「退職を決意しました」という意志を明確に示すこと。また、相手に何を言われても「申し訳ございません。もう決意したことなので。」と機械的に受け流すことだけです。
それ以上は不要であり、むしろ逆効果。柳のごとく相手の話を受け流してください。
3.完ぺきに引き止められない退職理由は存在しない
引き止めを完ぺきに押さえることが出来る退職理由は「ドクターストップ」以外には残念ながら存在しません。
(強制労働の禁止)
労働基準法 第5条
第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
ドクターストップがかかり、診断書を用意して働けない証明をすればそれ以上の労働は強制労働となり会社側が違法行為となります。よって、認めざるを得ないので引き止められない理由になります。
ですが、それ以外の理由はどんな理由だとしても相手に引き止めの反撃を喰らう素地が残ってしまいます。
【例】
- 引っ越し⇒リモートワーク
- 家族の面倒⇒時短業務
- 病気⇒休職後に復帰しよう
- 次の職場が決まった⇒条件アップするから残れ
一見すると地獄のような引き止めに見えますが、一応理屈は成立するわけです。
以上のことから、ドクターストップ以外は原則として相手の引き止めが成立してしまうので、確実に辞めたいなら退職理由や論破などを気にするよりも「法的に退職が成立してしまう条件」を加味して退職処理した方が良いです。
法的に退職できる「条件」を整えた方が確実
論破以上に「退職が成立してしまう条件」を用意してしまった方が退職という目的は果たしやすいです。
具体的には以下の項目を押さえて退職を申し出てみてください。
1.バックレは避ける
嫌な職場・もう行きたくない職場もあるかと思います。ですが、嫌だからと言ってバックレだけは避けてください。
バックレによる退職は認められていませんので、バックレや無断欠勤による退職を行うと違法行為となり労働者に対して損害賠償請求や懲戒解雇を与えられる危険があります。
中でも懲戒解雇になると以下の問題が起こります。
- 本来貰えるはずだった退職金の一部または全部不支給
- 転職時にマイナスな印象を与えることになる
また、懲戒解雇になると転職活動時に相手先に伝えなければ経歴詐称になるので必ず伝える必要があります。つまり、懲戒解雇になるとその事実が必ず転職先にはバレますので転職活動においてご自身の印象が悪くなり不利益しかありません。
ご自身のためにも、辞める際は法に則って確実・安全に辞めることにだけは注意してください。
2.退職届を渡す
退職は退職の意思を会社側に伝える必要があります。
口頭でも成立はしますが、後になって「言った・言わない」とうやむやにされる可能性もあるため、退職届をはじめとして何かしらの証拠を残して伝えた方が確実です。
受け取ってもらえない場合
- 辞めると伝えても認めてくれない
- 退職届を受け取ってもらえない
ということがあれば
- 退職届を内容証明郵便で会社に送る
- メールで退職を伝えて履歴を保存しておく
- 電話で伝え、且つその内容を録音しておく
などで対応すれば問題ありません。証拠が残った上で退職の意思を伝えたことが証明出来ます。
【補足】退職願と退職届の違い
退職時に退職願と退職届の扱いを混同してしまうこともあるので補足として。
退職願は辞表の意思表明をあらわすもので、雇用者側の受理・承諾を求めます。雇用者との合意が必要となるのでこれを雇用者に受理・承諾してもらわなければ退職の効果は生じません。
退職届は労働契約の一方的な解約の意思、辞職の意思表示を表すもので、出してしまうと取り下げはできません。退職届の場合、雇用者に伝えたら雇用者の受理・承諾がなくとも、民法第627条より2週間の経過によって退職の効果が生じます。
退職願はそれ自身に法的な効力が生じないので仮に退職願いが受理されないこと自体には違法性はなく労働者側としてもそれ以上のことはできません。よって、退職を成立させたいときは「退職届」を会社側に提出してください。退職届であれば退職の意思を示したことになるので退職が成立します。
3.可能なら就業規則に則って辞める
辞める2ヶ月前に伝える・3ヶ月前に伝える、など会社特有の規則があるかと思いますので原則は就業規則に従って退職手続きを進めることを第一に考えてください。
論破云々ではなく「会社の規則に則って退職を申し出ている」という正論で伝えている背景があることは退職の正当性・説得力は増します。
会社のルールに則って退職を伝え、且つ退職届を提出すれば労働者側に一切の非はありません。
4.退職の話が進まなくなった場合
退職の相談をしたにも拘わらず、それ以降一切話が進まないようであれば相談した上司にリマインドをかけてください。忙しくて忘れられている可能性も0ではありません。
在職強要を理由に退職届を郵送する
リマインドをかけても進まない時は辞めさせてくれないことによる在職強要(労働者の意に反して無理矢理働かせる行為)に該当すると考えられます。
この場合、「2.退職届を渡す」でもお伝えしたように辞める意思を伝えた証明を残し(退職届を内容証明郵便で会社に送る、など)、その上で民法第627条に従って2週間で会社を離れましょう。
在職強要と退職について詳しくは以下の記事をご参考になさってください。
5.民法第627条と有給消化のかけ合わせ
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
民法第627条
民法第627条により退職の自由は労働者の権利として定められています。仮に会社から引き止められたとしても会社には強制力はないので、退職は2週間で成立します。
有給を消化して実質的な即日退職へ
第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
労働基準法第三十九条|e-Gov法令検索
有給は労働者の権利として認められており会社はその権利を拒否することはできません。
民法第627条で退職までに最短でも2週間が必要とされていますが、その期間は必ず勤務していなくてはいけないとは定められていませんので、退職の意思を伝えてからその後の2週間は有給で過ごして退職することで実質的な即日退職と同じ状況を作りましょう。
時季変更権は無効
有給に対して会社側にも「時季変更権(会社が労働者の有給取得日の時期をずらせる権利)」がありますが、時季変更権は退職予定日を超えた行使はできません。
つまり、有給消化後に退職してしまうということは、他の時季に有給休暇を与えることができないということになるため、時季変更権を行使することができず有給申請者の請求が通ります。
退職前提での有給活用の場合、仮に会社から有給を使う時期を調整して欲しいと要請があっても従う必要はないので自分が辞めたいというタイミングで意図的に辞めることができます。
6.ハラスメント被害を訴える
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働契約法 | e-Gov法令検索
ハラスメントは労働者の心と体の安全に影響がある行為であり、労働契約法5条に基づき使用者である会社側が労働者の生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができる環境を用意できていない、となります。
加えて、ハラスメントはハラスメント防止法(正式名称:改正労働施策総合推進法)違反にも該当します。
いずれの場合でも法律に反した状況であることに違いは無いので、会社側には「身の安全が保障されないため」と伝えてご自身の退職処理を進めましょう。
ハラスメント被害による退職について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
7.労働条件の相違を訴える
(労働条件の明示)
労働基準法第15条
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
労働基準法第十五条より、労働条件の相違は即時に契約解除(即日退職)が認められています。
入社時に会社から受け取った雇用契約書と実際の現場での労働条件・仕事内容が異なる場合、その旨を会社に伝えて即日退職してしまいましょう。
労働条件の相違と退職について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
8.ドクターストップを訴える
会社での勤務が理由で体調不良やうつ病・適応障害等になり勤務が困難になった場合、心療内科で診てもらって症状の原因が会社の業務に関係していることを証明してもらいもらいましょう。
診断書を用意する
(やむを得ない事由による雇用の解除)
民法第628条
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
民法第628条よりやむを得ない事由が発生した場合は会社と労働者、双方の合意に基づき即日退職が成立しますが、心療内科で診断書を用意してもらえば客観的に勤務が出来ないことを証明できますので、民法第628条によるやむを得ない事由に該当します。その為、即日退職を認めてもらいやすくなります。
厄介な職場なら退職代行に相談すれば良い
法的に退職できる条件がそろっていたとしても、そもそも論として
- 退職を自分で切り出すのは難しい
- 理屈が通るような職場ではない
- どうしても辞めさせてくれない
という厄介な職場環境で困っているようでしたら労働組合が運営する退職代行サービスに相談して辞めてしまいましょう。
確実に退職が成立します。
退職代行はお手持ちのスマホから電話やLINE(メールでも可)か相談が可能。希望があれば相談したその日から代行業者が動き出してくれます。
代行業者が動き出した瞬間からあなたは職場に行くことも連絡する必要も無くなるので、早ければ相談した即日から会社に行かなくても良い状態になれます。
具体的には、
- 確実に退職が成立する
- 法律に則って退職処理するので法的なトラブルがない
- 自分で対応する必要が無いので退職にまつわるストレスが無い
等があり、希望者には有給消化や未払いの交渉もしてくれますので退職代行費を支払う以上の利用メリットがあります。
そのため、あなたが
- 退職を自分で切り出すのは難しい
- 退職相談をしたのに辞めさせてくれない
- でも、どうしても辞めたい
という状況であれば労働組合が運営する退職代行サービスに相談して辞めてしまいましょう。
まとめ
論破しても相手が理論的な人間でなければ理解してもらえず、むしろ相手の気持ちを逆なでてしまうだけです。
そのため、退職時は辞める旨と辞める強固な意志を相手に伝え、それ以上は粛々と辞める処理を進めてください。一番穏便にことが運びますので。
また、どうしても粛々とした対応が難しい職場環境にいる時は労働組合が運営する退職代行サービスに相談して代わりに粛々と退職処理を進めてもらいましょう。
辞めた後にもスケジュールはあるかと思います。退職後のご自身のプランに影響しないよう退職処理は円滑に進めてくださいね。