試用期間で嫌がらせを受けて退職する際の手順と注意点について解説します。
試用期間で嫌がらせを受けたら退職した方が良い
試用期間中に嫌がらせを受けた場合、「早々に辞める」もしくは「我慢して力づくで自分を認めさせる」しか選択肢がありません。
ですが、いずれにしても苦しい対応になります。
そのため、どうしても耐え切れない、もしくは残って真面目に対応しても期待は少ないな、と思ったときは辞めた方が良いです
労働環境が与える影響は大きい
厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概要」の「転職入職者が前職を辞めた理由」によると、前職を辞めた理由として「職場の人間関係が好ましくなかった」という理由が一定の割合を示しています。
つまり、人間関係や社風などがが合わない労働環境に身を置くと辞めたくなるほどの強いストレスを毎日浴び続けることになります。
うつや適応障害になる可能性
強いストレスを感じ続けるとうつ病や適応障害など精神疾患にかかるリスクがあります。
うつや適応障害などの精神疾患にかかると仕事だけではなくその後のご自身の人生やプライベートに影響します。
病気の回復には時間がかかり、勤務が出来なくなるだけでなく、就職活動や社会復帰にも影響します。ですが、ご自身のプライベートを会社が守ってくれることはありません。
そのため、うつや適応障害になる可能性があるなら我慢していまの職場に留まることなく、退職を最優先に動いてください。社会的なダメージを負うリスクを背負ってまで今の会社で我慢する必要はありません。
一番大事なことはご自身の身の安全です。
うつになる前に退職したことが良い理由について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
残るなら認めさせるしかない
残る場合は嫌がらせが続くことを覚悟しながら、徐々に自分を認めさせるよう勤務することになります。
もちろん認めさせることも選択肢にはなりますが、いじめをしてくるような相手はそもそも相性に問題があります。
周囲に自分のことを認めさせ、いじめてきた加害者もあなたを認めざるを得ない状況を作ったとしても、完ぺきにスッキリした状態になることは難しいです。
いじめはしてこないけどくすぶったまま、という関係になる可能性が高く、その人が勤務し続ける限りは周囲にも気を使わせてしまうことになるでしょう。
残って認めさせる際は、その旨も予め覚悟しておきましょう。
辞めるか悩む状態なら辞めた方が良い
いずれの選択肢もあり「続けるか?辞めるか?」と悩んでいる状態なら辞めた方が良いです。
仮に今我慢できたとしても問題がくすぶり続けている以上は日々ストレスを感じ続けることになります。そのため、遠くない将来に再度「辞めよう」となる可能性が高いです。
どうせ辞める可能性が高いなら早期に退職して新しいキャリアを築いた方がご自身にとってのメリットは大きいです。残る時は認めさせる覚悟を持った時か、「続けても良い」と決断できた時だけにしましょう。
試用期間で辞める際の注意点
試用期間での脅しには屈しない
第二十一条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
労働基準法第21条
一 日日雇い入れられる者
二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
四 試の使用期間中の者
嫌がらせの延長で正当な理由もなく解雇要求をしてくる職場もあります。
確かに労働基準法第21条により特例として試用期間開始から14日以内であれば会社側は労働者側を解雇することが可能ですが、会社側による感情的な解雇は認められません。
(解雇)
労働契約法第16条
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
解雇は労働契約法第16条に基づいて「客観的に合理的な理由」「社会通念上相当であると認められる理由」が無ければ認められません。
その為、嫌がらせの一環として解雇要求をしてきたとしても正当性が無いので無効。相手の要求に従う必要はありません。
試用期間中の解雇について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
辞めさせてくれないことは違法
(強制労働の禁止)
労働基準法 第5条
第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
退職を申し出たのにもかかわらず「辞めさせることはできない」と言われた際は脅し文句になりパワハラに該当します。
また、労働基準法第5条より使用者(会社側)は労働者の意思に反した労働を強制してはいけないと定められています。そのため、退職届を渡したにも拘わらず受け取らない、辞めさせることはできないと言われることは労働者の意思に反した不当な拘束に該当するため違法行為となります。よって、労働基準法第5条違反に該当するので会社の要請に従う必要はありません。
辞めさせてくれない強制労働問題について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
バックレは避けた方が良い
試用期間だからといってバックレによる退職は認められていません。
バックレによる退職を行うと「違法行為」となり労働者に対して損害賠償請求や懲戒解雇を与えられる危険があります。
中でも懲戒解雇になると転職活動時に相手先に伝えなければ経歴詐称になるので必ず伝える必要があります。
つまり、懲戒解雇になるとその事実が必ず転職先にはバレますので転職活動においてご自身の印象が悪くなり不利益しかありません。
辞めるなら法に則って確実に・安全に辞めましょう。法に基づかない即日退職行為だけは控えた方が良いです。
試用期間ギリギリよりも事前に退職を伝えておく
試用期間も退職の原則は一般的な労働者と変わりません。
そのため、原則として即日退職はできませんので辞める際は事前に退職する旨を伝えておきましょう。
退職届を提出する
退職時は口頭で伝えることもできますが、中には「言った・言わない」とうやむやにされる可能性もあるため、証拠として残した方が確実。そのため、退職届という形にして退職する旨を会社側に伝えましょう。
試用期間で退職しても給与は請求できる
(賃金の支払)
労働基準法第24条
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
② 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
労働基準法第24条では、賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない、と規定されています。 従って、働いた分はその全額が支給されなければなりません。
よって、試用期間中での退職とはいえ会社が未払いをして良いことにはならず、仮に支払が無いときは給与を会社側に請求していただいても何も問題ありません。
試用期間で不快な思いをして辞める際の注意点については以下の記事も併せてご参考になさってください。
試用期間中に退職する方法
1.就業規則に従って辞める
原則は社内規定に従って退職手続きを進めましょう。辞める2ヶ月前に伝える、3ヶ月前に伝える、など会社特有の規定があるかと思います
なお、退職時は「退職願」ではなく『退職届』を会社側に渡してください。
退職願と退職届の違い
退職願は辞表の意思表明をあらわすもので、雇用者側の受理・承諾を求めます。雇用者との合意が必要となるのでこれを雇用者に受理・承諾してもらわなければ退職の効果は生じません。
退職届は労働契約の一方的な解約の意思、辞職の意思表示を表すもので、出してしまうと取り下げはできません。退職届の場合、雇用者に伝えたら雇用者の受理・承諾がなくとも、2週間の経過により、退職の効果が生じます。
退職願はそれ自身に法的な効力が生じないので退職願いが受理されないこと自体には違法性がありません。よって、退職を成立させたいときは「退職届」を会社側に提出してください。退職届であれば退職の意思を示したことになるので退職が成立します。
2.民法第627条より2週間で辞める
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
民法第627条
民法第627条により退職の自由は労働者の権利として定められています。
最短で退職の2週間前から辞める旨を申告しておけば退職が成立します。また、会社側には労働者の退職を拒否する権限はありません。
雇用先によっては特殊な雇用契約書を結んでいる・特殊な就業規則になっている(辞める半年前に申告する、など)などの可能性もありますが、就業規則よりも法律が優先されますので退職の意思を伝えれば(=退職届の提出)必ず退職が成立します。
- どうしても今の職場に居続けるのが難しい
- 就業規則よりも早くに辞めたい
- 簡単に辞めさせてもらえない
- でも、どうしても少しでも早く辞めたい
というご状況であれば法に則って退職届を提出して退職の意思を示し、辞めてしまいましょう。
退職届を受け取ってもらえない場合
事情があり退職届を直接渡すことが出来ない、もしくは相談したのに受け取ってもらえない場合は配達記録付き内容証明郵便で退職届を郵送してください。
会社側に退職届が届けられたことが証明できるため退職の意思を伝えた証拠になります。
また他にも
- 退職の旨を記載したメールを送る
- 録音しながら口頭で伝える
等の手段を用いて退職の意思(解約の申入れ)を伝えるのも有効です。
口頭で伝えることもできますが、中には「言った・言わない」とうやむやにされる可能性もあるため、退職届をはじめとして何かしらの証拠を残して伝えた方が確実です。
なお、会社側が退職拒否をしてきた場合「在職強要」となり違法行為に該当しますので会社の要請を受諾する必要はありません。詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
3.合意退職により即日で辞める
(やむを得ない事由による雇用の解除)
民法第628条
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
民法第628条より、やむを得ない事由が発生した場合は会社と労働者、双方の合意に基づき即日退職が成立します。
やむを得ない事由の例としては怪我・病気、家族の介護、出産などによりどうしても勤務が出来ない場合が該当します。
今の職場で働き続けることが出来ない旨を伝えて、会社との合意を得られればすぐに辞めることが可能です。
4.ハラスメントを訴えて辞める
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働契約法 | e-Gov法令検索
ハラスメントは労働者の心と体の安全に影響がある行為であり、ハラスメントが起こる職場ということは労働契約法5条で定められた使用者である会社側が労働者の生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができる環境を用意できていない職場、となります。
つまり、労働契約法5条に反している状況(違法な状況)ということです。
加えて、ハラスメントはハラスメント防止法(正式名称:改正労働施策総合推進法)違反にも該当します。
いずれの場合でも法律に反した状況であることに違いは無いので労働者側が我慢して会社に居続ける理由はありません。会社側に対して「身の安全が保障されないため」と伝えてご自身の退職処理を進めましょう。
ハラスメントに対する退職について詳しくは以下の記事もご参考になさってください。
5.どうしてもの際は退職代行に相談する
- 自分で退職を切り出すのが難しい
- 退職相談をしたのに辞めさせてくれない
- でも、どうしても辞めたい
などのご状況であれば労働組合が運営する退職代行サービスに相談して辞めてしまいましょう。
確実に退職が成立します。
退職代行はお手持ちのスマホから電話やLINE(メールでも可)か相談が可能。希望があれば相談したその日から代行業者が動き出してくれます。
代行業者が動き出した瞬間からあなたは職場に行くことも連絡する必要も無くなるので、早ければ相談した即日から会社に行かなくても良い状態になれます。
具体的には、
- 確実に退職が成立する
- 法律に則って退職処理するので法的なトラブルがない
- 自分で対応する必要が無いので退職にまつわるストレスが無い
等があります。
そのため、あなたが
- 自分で退職を切り出すのが難しい
- 退職相談をしたのに辞めさせてくれない
- でも、どうしても辞めたい
という状況であれば労働組合が運営する退職代行サービスに相談して辞めてしまいましょう。
まとめ
試用期間で嫌がらせを受けたら我慢は厳禁。万が一にも我慢して勤務し続けると、試用期間を明けても嫌がらせが続き、この先延々と仕事に行くのが苦しくなります。
その為、嫌がらせを感じたらすぐの対応がご自身の身の安全を守る一番の手段です。
すぐの対応でどうにかなるなら本採用まで検討しても良いですが、どうにかなりそうにないと思えば早々に退職して新しい職場探しに切り替えていきましょう。