急な退職は会社に少なくない影響を与えることがあります。そんなデリケートな条件下でも急な退職で使える理由や、法的にすぐに退職が成立する条件を詳しく解説します。
急な退職で使える理由
そもそも退職には退職理由を用意する義務は無いので理由が無くとも辞めることは可能ですが、どうしても退職理由を用意する必要がある場合は以下のテーマを元に急な退職を行う際の退職理由として活用できます。
なお、急な退職では退職理由以上に会社に対して迷惑をかけないように説明し理解を求めるよう訴える方が大事なので、その前提は予めご理解ください。
ハラスメントの被害
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働契約法 | e-Gov法令検索
ハラスメントは労働者の心と体の安全に影響がある行為であり、労働契約法5条に基づき使用者である会社側が労働者の生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができる環境を用意できていない、となります。
そのため、ハラスメントを受けている場合、労働契約法第五条を元に退職を申し出ることができます。ただし、ハラスメントを理由にする場合は被害を受けたことを証明するための証拠を収集し、会社や第三者機関にも理解してもらえる状態であることが重要です。
労働条件の相違
(労働条件の明示)
労働基準法第15条
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
労働基準法第十五条より、労働条件の相違は即時に契約解除(即日退職)が認められています。
そのため、労働条件が合意されたものと異なる場合は即時退職することができます。
ただし、いきなり辞めるよりも会社に対して説明し、解決を求めることも併せて検討してください。
やむを得ない事由に対する双方の合意
(やむを得ない事由による雇用の解除)
民法第628条
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
民法第628条より、やむを得ない事由が発生した場合は会社と労働者、双方の合意に基づき即日退職が成立します。
なお、やむを得ない事由としては怪我・病気、家族の介護、出産などによりどうしても勤務が出来ない場合が該当します。
ドクターストップがかかった場合
医師から労働能力がなく、勤務の継続が難しいと言われた際はやむを得ない事由に該当するので民法第628条に該当します。なお、法的な必須義務はありませんが、医師の診断を証明する診断書も併せて提示すると会社側にも事情を納得させやすくなります。
1年以上の勤務継続(派遣の場合)
第百三十七条 期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が一年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第十四条第一項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成十五年法律第百四号)附則第三条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第六百二十八条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から一年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。
労働基準法137条
派遣会社と有期雇用派遣として契約をしている状況であっても、労働基準法137条より勤務期間が1年以上経過している場合に限り労働者側の希望するタイミングでいつでも退職ができるため即時解約(即日退職)が成立します。つまり、1年を経過していれば「派遣を今日で辞めます」と伝えても法律上は成立します。
ただし、あくまでもこの規定は契約期間が1年を越える場合を想定したものであり、3ヶ月、半年という1年未満の契約を繰り返して累計1年という場合は適用外である点にご注意ください。
嘘の退職理由を使った方がおすすめなケースもある
基本的には嘘の退職理由を使用することは避けるべきです。
ただし、職場の雰囲気が悪く、ハラスメントや不適切な行動を受けている場合など特殊な状況下では正直に伝えると辞めにくくなるリスクもあるので、円滑に辞めるために敢えて嘘の退職理由を使用して会社を脱出することが望ましいこともあります。
なぜ優秀な人ほど突然辞めるのか?を会社が理解していない
優秀な人ほど突然会社を辞めることがありますが、その理由として「会社から適切な評価を受けられなかった」「自己の成長が見込めなかった」「会社の方針に共感できなかった」など、会社や自分自身の将来の見通しに疑問を持っていることが多いと考えられています。
【事実】急に辞める人は少なくない
仕事を急に辞めないといけない(辞める3週間前に言う)場合、皆が辞めることを納得する良い理由を教えて下さい。
Yahoo!知恵袋
引き止められない退職理由を用意する
退職を決意した場合、相談時に引き止められる可能性があるので、事前に引き止められない理由を用意しておきましょう。そのためには、自分自身のキャリアアップやプライベートのこと、など理由にすることが良いでしょう。
なお、辞めやすくなる退職理由としては「退職理由で最強なおすすめの内容はドクターストップか法的な訴求」でもお伝えしたように、会社側が関与できない理由を用意してくと良いでしょう。
急に退職する場合の注意点
バックレだけは避ける
バックレによる退職は認められていません。そのため、バックレによる退職を行うと「違法行為」となり労働者に対して損害賠償請求や懲戒解雇を与えられる危険があります。
中でも懲戒解雇になると以下の問題が起こります。
- 本来貰えるはずだった退職金の一部または全部不支給
- 転職時にマイナスな印象を与えることになる
また、懲戒解雇になると転職活動時に相手先に伝えなければ経歴詐称になるので必ず伝える必要があります。つまり、懲戒解雇になるとその事実が必ず転職先にはバレますので転職活動においてご自身の印象が悪くなり不利益しかありません。
他にも嫌がらせや呼び戻しなどの可能性もあり、バックレは労働者にとってデメリットが大きすぎます。そのため、辞めるなら法に則って確実に・安全に辞めましょう。
退職届は必ず提出する
民法第627条より退職時は解約の申入れが必要になります。
口頭で伝えることもできますが、中には「言った・言わない」とうやむやにされる可能性もあるため、証拠として残した方が確実。そのため、退職届という形にして退職する旨を会社側に伝えましょう。
受け取ってもらえない場合
- 辞めると伝えても認めてくれない
- 退職届を受け取ってもらえない
という状況であれば
- 退職届を内容証明郵便で会社に送る
- メールで退職を伝えて履歴を保存しておく
- 電話で伝え、且つその内容を録音しておく
などで伝えてください。証拠が残った上で退職の意思を伝えたことが証明出来ます。
退職を急に言う時はお詫びの気持ちを前面に出す
急に退職することで職場や上司、同僚に迷惑をかけることがあります。
そのため、退職を伝える際はお詫びの気持ちを前面に出して退職相談をすることが重要になります。また、退職後も可能な限り良好な関係を保つためにも、辞める際は誠意を持って対応することが必要になります。
急に退職する人が気になりやすいこと【Q&A】
- Q退職代行に相談しても良いもの?
- A
もちろん問題はありません。事情があってご自身で伝えるのが難しい時は相談するのも選択肢になります。
ただし、相談する際は「非弁行為」に該当しない業者には相談してください。
わかりやすく言うと「労働組合が運営している退職代行」もしくは「弁護士が運営している退職代行」には相談可能、それ以外は相談しない方が良い、ということです。(弁護士監修や労働組合と提携などはNG。あくまで運営母体が労働組合が運営しているか弁護士が運営している業者にした方が良いです。)
「非弁業者」は弁護士法が禁止する「非弁行為」に該当する業者のことを指します。退職における「非弁行為」に影響するものは退職に関する交渉事や有給消化、未払いの交渉などになりますが、「非弁行為」に該当する業者はこうした交渉の直接的な対応が難しいので退職代行が失敗するリスクがあります。
【参考】
非弁行為とは,弁護士法 72 条が禁止する弁護士
非弁行為 – 東京弁護士会
でない者が報酬目的で行う法律事務の取扱い行為
又は訴訟事件や債務整理事件等の周旋行為を指す。(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士法第七十二条
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。非弁業者ではない退職代行業者の方が価格的に安いことも多いですが、安さにはそれ相応の理由があるということです。
- Q損害賠償を請求されることはある?
- A
通常、従業員が会社を辞めたからという理由で会社側から損害賠償請求されることはありません。
損害賠償が認められるのは、客観的に見て辞め方に重大きな問題があるような相当極端な事例です。「損害賠償だ!」と言ってくるくる会社も、その大半が主観的な言葉・脅し文句であることが多いです。
「退職 損害賠償」などで調べるとわかりますが、判例はあるもののかなり特殊な状況に限られます。
(政治団体に秘密で加入していた、虚偽の休みを何度も繰り返していた、会社のスタッフを競合他社に大量引き抜いて辞めた、など)
一方で、損害賠償を請求した会社を不服として逆に訴え認められたケースもあります。
【参考】
よほどの特殊な事情でなければ社員が辞めただけのことで会社が損害賠償を請求するのはリターンに見合わないことが多いです。
可能性が0出ない以上絶対とは言えませんが、言い換えるとそれぐらいに稀なことだとお考え下さい。
- Q次の会社への影響はある?
- A
前の会社となにかしらの繋がりがある会社に転職した場合、横のつながりで悪い評判を流されることも0とは言えません。
可能性が0では無いので絶対とは言えませんが、基本的にはこのようなことが起こるのは稀だとお考えください。(気にされる方はちょっとだけドラマや漫画から影響受け過ぎかもしれません。汗)
- Q引き継ぎはどうする?
- A
引き継ぎは法律で定められた規則や義務ではなく、お世話になった会社に対する気持ちとして行う業務です。
よって、引き継ぎを拒否することもできますし引き継ぎをしないことで罰則が発生することもありません。
円満退社や一般的なマナーとしては引き継ぎは行った方が良いですが、事情があってどうしても対応が難しい時は引き継ぎ未対応でも退職は成立します。
まとめ
事情があって急な退職になることは誰もが有り得る話です。そんな時に如何にしてトラブルを避けて辞めるか?が大切になってきます。
いざ急な退職になった際は本記事を参考にトラブルの少ない退職処理を進めてみてください。